第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「よく憶えてるね、ペトラ。私…、褒めてくれてるのはわかったけど、半分くらいは何を言ってるのかわからなかったわ」
「だね。特に髪に大象ってなんだろう?」
「さぁ…」
二人は首をかしげていたが、ペトラがマヤの豊かな鳶色(とびいろ)の髪に再び顔をうずめた。
「おじいちゃんの言ってることはきっと、マヤが美人で優しくて髪が綺麗でいい匂いがして大好きだってことだよ!」
「褒めすぎよ、ペトラ」
「だって本当のことだもん。だから私も兵長もマヤを好きになった」
「……ありがとう」
マヤはペトラのありったけの賛辞を受け止めてから。
「ねぇ…」
「うん?」
「おじいさんがたくさん褒めてくれたのは嬉しかったけど、そのあとに言ってくれたことの方がもっと嬉しかったよ」
「どれ? いつまでも私と仲良くしてくれって言ってたあれ?」
「そう。喜びのときも悲しみのときも、ペトラとともにいてほしい。金蘭の契りの友となっていつまでも一緒にいてやってくれって」
「おじいちゃんも年だから。色々面倒なこと言ってきてごめん」
初対面のマヤにぐいぐいと “ああしてくれ、こうしてくれ” と言った祖父のことが急に申し訳なくなり、ペトラは手を合わせて謝った。
「どうして謝るの。おじいさんが言ったこと全部、私がペトラとそうなりたいって思うことなのよ?」
「え~、なんか怖いことも言ってたけど…」
「刎頸の友だったかしら。意味を説明してくれたけど、友のためなら首をはねられてもいいって」
「縁起でもないよね、調査兵には冗談でも言っちゃいけない」
「そうね。でも私、ペトラのためだったら命も惜しくないわよ」
「それは私だって!」
ペトラは再び強くマヤに抱きついた。その体温を感じながらマヤはささやく。
「ペトラ、ずっと友達だよ」
「もちろん!」
二人は友情を確認し合った直後特有の、こそばゆい照れくささを感じて黙っていた。
その沈黙を破ったのはマヤ。
「ちょっとだけだったけど、オリーにも会えて良かった」
オルオの家は隣。妹のオリーや四人の弟たちがわらわら出てきたのだ。
「とってもいい子たち。今度時間のあるときに、ゆっくりと会いたいな」