第25章 王都の舞踏会
……レイさんが怒ってる…。
マヤはどこかで同じように叱られたことを思い出した。
“祖父の年齢だろうが父親の年齢だろうが、男は男だろうが。簡単に信用するな。お前はもっと危機感を持て”
“いいか、年頃の女なんだから気をつけろ”
……リヴァイ兵長…。
面影が浮かぶだけで切なくなる。
「……わかりました。気をつけます」
急に素直に気をつけると言うマヤを、レイは不思議に思った。
「……なんだ? 急に素直になって…」
「前に同じことを言われて…。ちゃんと気をつけなきゃ駄目だなって思ったんです」
「へぇ…、そうかよ…」
……同じことを…?
男か? 男だろうな。
そいつは間違ぇなくマヤのことを…。
もやもやとした気落ちが胸を押しつぶしていく。
それに気を取られて自身の名を呼ばれていることに気づけないでいた。
「……レイさん、レイさん?」
「……悪ぃ、どうした?」
「さっきの… 名士の人たちって、どういう方が来てるんですか?」
マヤは気になっていたのだ。
故郷のクロルバ区にも、兵舎に近い大きな街のヘルネにも “名士” などと称されて貴族の舞踏会に招待される人はいるのだろうか?
たとえばマリウスの父? ディーン商会は間違いなくクロルバを仕切っている大きな商会ではあるが。
たとえばエステル? 彼女の場合は、実際にベルナール・ディオール氏の右腕として夜会には顔を出してきていたらしいので当てはまるのに違いない。
……名士だなんて素敵な響き。どういった人のことなの?
そのような純粋な気持ちで訊いてみた。
「あぁぁ、そうだな… 今日出席してたのは舞台監督のティムリー・バリントン、女優のヘレーナ・ボナミ…」
「うわぁ! すごいですね! 知らない方ばかりだけど」
「知らねぇのかよ」
「はい! でも監督さんとか女優さんとか別世界の人たちで、どきどきします。そういう方たちがお屋敷に来るなんて、やっぱり貴族ってすごいんですね」
「まぁ、互いにメリットがあるからな。貴族は名士を呼べば箔がつくし、名士の方も夜会で… より上位の貴族に顔を売れるしな」
「へぇ…! そうなんだ」
未知の世界の話に、わくわくする。
「確か舞台化されるとかで…」
マヤはレイの話す名士の話に夢中になった。