第25章 王都の舞踏会
「……変態貴族って、さっきの立派な髭の人のことでしょう?」
マヤは廊下で見かけた、ぴんと両端が跳ね上がったカイゼル髭の貴族を思い浮かべていた。
「あぁ…、知ってんのか」
「すれ違ったんです」
「あいつは嫌がるメイドを空き部屋に連れこもうとしてたんだ。オレがたまたま来なければ、どうなっていたことか…」
「そうだったんですね。良かった、メイドさんが無事で…」
ほっと胸を撫で下ろしているマヤ。
「馬鹿野郎! メイドの心配より自分の心配だろうが。いいか? そういう変態には気をつけろ」
「……了解…」
どこか不服そうな雰囲気をかもし出しながらのマヤの返答に、レイは苛立つ。
「オレの言ってる意味、わかってんのか!」
「だって、レイさん…。私、兵士ですよ?」
「だから?」
「対人格闘の訓練だってしてるし、さっき大広間で見かけた貴族の誰にだって負ける気がしませんけど…」
「は?」
「確かに私は対人格闘の成績はあんまりいい方じゃないですけど…。でもあんな全然鍛えていなさそうな人たちには勝てると思いますよ? ほら、見てください。立派に兵士だから!」
にっこりと笑いながら右腕で、力こぶを作る仕草をしてみせた。
薄桃色の可憐なドレス姿でやってみるポーズではない。
そのギャップに、頭がクラクラする。
……可愛い…。今すぐ抱きしめてぇ。
「……はぁ…」
またそっぽを向いてしまったレイが、ため息をつく。
「……どうしたんですか?」
「いい加減にしろ」
「はい?」
「危機感がなさすぎる。大体オレが今、襲いかかったらどうすんだ…」
「レイさんは、そんなことしないと思いますけど…?」
「それが甘いって言ってんだ! 確かにマヤは兵士かもしれねぇが、そんなのいくらだって方法さえありゃヤれるんだぜ? 相手だっていつも一人とは限らねぇ。いっぺんに何人もの男に襲われても、そんなのん気なこと言ってられんのか。男なんか女とヤることばっか考えてんだ。もっと危機感を持てよ」