第11章 紅茶の時間
ミケがニヤニヤしながら、マヤに声をかけた。
「マヤ、三人分の用意をしてくれないか」
「……はい」
マヤはミケとリヴァイに頭を下げると、給湯室に向かった。
お湯を沸かしながら、客人用カップとミケのマグカップを食器棚から取り出した。
マヤは自分のお気に入りのカップは自室に置いてあるため、ここでは客人用カップを使用している。
いつもどおりの手順で、沸いたお湯でティーポットとカップを温める。
お湯を捨て、茶葉を入れたポットに再度お湯を注ぐと、お茶道具一式をトレイに乗せ執務室に戻った。
扉をノックしながら入ると、窓際に立って外の景色を眺めていたミケが振り返った。
リヴァイは気難しい顔をしてソファに座っている。
二人はマヤが不在の間、会話した様子はない。
相変わらずの沈黙の中をマヤは進み、ソファのテーブルにお茶のセットをならべた。
砂時計の砂が落ちるまでの間、マヤは部屋の静けさに耐えきれず気づけばリヴァイに話しかけていた。
「……兵長、わざわざ紅茶を飲みに来てくださったんですか?」
「………」
……しまった!
リヴァイが何も答えず… ただ眉間の皺がさらに深くなったのを目の当たりにして、マヤは自身の愚問を激しく悔いた。
「マヤの淹れる紅茶は美味いからな… そうだろ、リヴァイ?」
リヴァイの代わりに、ミケが言葉をつなぐ。
「あぁ」
リヴァイはひとことつぶやくと、紅茶を淹れるマヤの手許に見入った。
……分隊長のおかげで助かった…。
そう思いながらマヤは紅茶を淹れ終わった。
「どうぞ」
「ありがとう」
リヴァイがお礼を言ったことに驚いたマヤは、無意識に目を見開いてしまった。
それを見逃さなかったリヴァイが鋭い声を出す。
「なんだ」
「あっ… いえ」
「お前がめずらしく礼なんか言うから、マヤも驚いたんだろうよ」
「……酷い言われようだな。俺だって礼くらい言う」
顔をしかめながら紅茶を飲んだリヴァイの顔が、みるみる緩んだ。
「……悪くねぇ」
「ありがとうございます」
今度はマヤがリヴァイに、お礼の言葉とともにやわらかい笑顔を向けた。