第11章 紅茶の時間
次の日の午後もまた、マヤはミケ分隊長の執務室にいた。
執務を始めてから、そろそろ一時間経つ。
ミケとマヤは、どちらからともなく手を止め顔を見合わせた。
「お茶にしましょうか」
「そうだな」
マヤは扉の方に歩きかけたが、ふと立ち止まる。
「そういえば分隊長、兵長が紅茶を飲みに来るって言ってましたけど、来ませんでしたね」
新聞を読んでいたミケは顔を上げ、鼻を鳴らした。
その様子を見ながらマヤはつづける。
「何か賭ければ良かった~! そうしたら私が勝ったのになぁ…」
「今からでも賭けるか?」
「え? だってもう私の勝ち決定ですよ?」
「それはどうかな」
「ふふ、いいんですか? 本当に賭けちゃいますよ?」
「もちろん」
マヤは悪戯っぽい笑顔を全開にする。
「何を賭けましょうか?」
ミケは腕を組んで少しの間考えていたが、すぐに答えを出した。
「マヤ、お前が勝ったら… つまりリヴァイが来なかったらなんでも好きなものを奢ろう」
「いいんですか!?」
「あぁ」
「じゃあ分隊長が勝ったら?」
「俺が勝ったら… リヴァイがここに来てお前の紅茶を飲んだら…、俺の頼みを聞いてほしい」
マヤは首を傾げた。
「頼み?」
「あぁ、ちょっとつきあってほしいところが…」
ミケがそう言いかけたのと、扉がいきなり大きくひらいたのとが同時だった。
「あぁぁぁ…」「フッ、ほらな」
マヤの落胆する声と、ミケの勝ち誇った声が重なる。
部屋に入ってきたリヴァイは、二人の反応に怪訝そうに立ち止まった。
「なんだ?」
眉間に皺を寄せて、すこぶる不機嫌そうだ。
マヤはそんないつもどおりの兵長の様子を見て考えた。
……そうだ、部屋に入ってきただけで、用事が終わったらすぐに出ていくかも! 分隊長は “兵長が紅茶を飲んだら” って言ってたから、まだ私の負けってことにはならないわ。
「リヴァイ、なんの用だ?」
ミケの質問にリヴァイがどう答えるか、マヤは固唾をのんで見守った。
「あ? いつでも来いって言ったのはてめぇだろうが」
そう吐き捨てると、勝手にソファにドカッと座った。