第11章 紅茶の時間
執務室にあるソファは三人がけだ。
リヴァイが当たり前のように先ほどまでマヤが座っていた真ん中を陣取っているものだから、マヤは端の方に窮屈そうに腰をかけた。
……兵長が向こうの端に座ってくれたら、少し余裕があるのに…。
心の中でそんなことを思いながら紅茶を飲み、ふぅっと一息つく。
ミケの新聞をめくる音と紅茶をすする音が、交互に聞こえてくる。
穏やかな時が流れていく。
「マヤ」
「はい」
名前を呼ばれ顔を上げると、リヴァイは掴んだカップを顔の高さまで上げていた。
「何故、俺のカップを使わない」
「あっ… それはその… 勝手に兵長のカップをさわったらいけないと思ったんです…」
「そうか。……明日から俺のを使え」
「わかりました」
……ん? 明日?
マヤがリヴァイの言う “明日” に首を傾げていると、ミケの少しからかうような笑い声が聞こえた。
「おいおいリヴァイ。お前、明日も来るつもりか」
「………」
「よっぽどマヤの紅茶が気に入ったんだな?」
「一人で淹れるより楽なだけだ」
そっぽを向いたリヴァイは、ぼそっとつぶやいた。
その横顔になぜか胸が締めつけられる気がしたマヤは、思わず助け舟を出した。
「分隊長、紅茶って一人分より多い量を淹れた方が美味しいんですよ」
「そうなのか?」
「はい。たっぷりのお湯で茶葉にしっかり踊ってもらわないと駄目なんです」
「茶葉が躍る?」
ミケはその砂色の長い前髪の下にある目を、ほんの少し見開いた。
「えぇ。この砂時計の砂が落ちている間にポットの中では、茶葉が上へ下へと躍っていて、その味や香りを目一杯抽出しているんですよ」
「へぇ、そうなのか。面白いな」
ミケが興味深そうに相槌を打つと、黙って聞いていたリヴァイも言葉を添えた。
「ジャンピングって言うんだ」
「そうそう、ジャンピングです。だから分隊長、一人分よりも二人分、二人分よりも三人分を淹れる方がたっぷりのお湯でしっかり茶葉がひらくから美味しくなるんですよ」