第2章 芽生える
昼休みに入り、マヤはひとりで食堂の隅の席についていた。
昼食は、いつもの硬いパンと芋のスープだ。
同じ班だったマリウスと取ることの多かった昼食だが、彼がいなくなった今、マヤはひとりで静かにパンを千切っては口に運んでいた。
「マヤ!」
ペトラの大声でそれでなくても硬いパンが、喉に詰まりそうになる。
「ペトラ、どうしたの? 大声出して」
水を飲みながら訊くと、ペトラはちょっと待ってと手のひらをかざしたかと思うと、昼食を取りにカウンターに走っていった。
トレイを持って戻ってくると、勢いよくマヤの向かいの席に腰をかけた。
「マヤ! さっき兵長が、マヤとマリウスがつきあってたのかって訊いてきたの!」
「ん? 兵長?」
「そう! 兵長!」
「……なんで?」
「それは私が訊きたいよ! マヤ、兵長と何かあるの?」
「ある訳ないでしょ。しゃべったこともないのに」
「……だよね」
ペトラは昼食に全く手をつけずに、考えこんでしまった。
「ペトラ、時間なくなるよ?」
マヤが見兼ねて声をかけると、ペトラは難しい顔をしながら芋のスープをすすり始めた。
ペトラが食事に手をつけたことに安心したマヤは、独り言のようにつぶやいた。
「……兵長? マリウス?」
もぐもぐと芋を咀嚼しながら、ペトラが言う。
「ほら今朝食堂で、マヤがマリウスの家に行った話になったじゃない?」
「あぁ、うん」
「兵長もいたから、それで訊いてきたんだと思うのよね」
「……ふぅん…」
「ほんと、何なんだろうね?」
「で、ペトラ。どう答えたの?」
芋をのみこみながら、ペトラは答える。
「つきあってないって言ったよ。二人は幼馴染みで、マリウスはマヤに好き好きって言いまくってたって言っといた」
「……変な情報、流さなくていいから!」
マヤは少し顔を赤くした。
「だって本当のことじゃない」
ペトラは口を尖らす。
「まぁ 兵長も深い意味はないと思うっていうか、ある訳ないし。気まぐれで訊いただけよ、きっと」
マヤが笑いながらそう言うと、ペトラもそれもそうだねと同意し、二人の話題は街に新しくできたケーキ屋の話に変わった。