第25章 王都の舞踏会
「私だってキラキラしたいもん! 恋の真似事をしたっていいじゃない!」
ちょうどそのとき便所から戻ってきたオルオが、ソファに座っている二人を見つけてやってきた。
「ペトラ! やっとあのキザ野郎から解放されたのか」
「は? 何を言ってるんだか! カインさんは伯爵に呼ばれただけ。用事が終わったらまた踊ろうねって言ってるんだから」
「おいおい、もうやめとけって。充分に踊ってたじゃないか。これ以上は近づかない方がいいんじゃね?」
オルオはソファの前で腰に手を当てて立っている。
それを見上げて、ペトラはまくし立てた。
「何よ! オルオには関係ないでしょ! マヤもオルオも心配してくれてるんだろうけど、大きなお世話よ。カインさんはそりゃ、ちょっと言うことがキザかもしれないけど、すごくかっこいいし、優しいんだから!」
「けっ! あんなパパ野郎、変態に決まってるだろ。いい加減、目を覚ませよ」
「うるさいわね! 大体、オルオがシワシワなのが悪いんでしょ! もう、ほっといて!」
ペトラは握りしめていたおしぼりをマヤの手の中に押しこめた。
「マヤ、心配しなくていいからね」
そして立ち上がってオルオをキッと睨みつけると、カインの方へ行ってしまった。
「なんだ、あいつ!」
「オルオ…。見守ってあげようよ」
「いいのかよ」
「うん」
……ペトラ、カインさんの話をしてるとき、嬉しそうだった。
キラキラしてた。
ここは王都、貴族の屋敷。
エルヴィン団長だって言っていた。
「せっかく貴族の社交界に顔を出すんだ。純粋に非日常の世界を楽しんでほしいとも思っている」
……そうよ。ちゃんと気をつけていれさえすれば、ちょっとくらいはいいじゃない。
マヤはカインと合流して、とびきりの笑顔でいるペトラを見て、微笑んだ。
……そうね、ペトラ。恋の真似事をしたっていいじゃない… だね。