第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「それは多分…」
マヤはゆっくりと答えた。
「ペトラが自分で思ってる以上にオルオのことを好きなんじゃないかな?」
「は? なに言ってんのよ、そんな訳ないじゃん!」
ペトラが反発することくらいマヤにはわかっている。
「そんな訳あるわ。ひとくちに “好き” といっても色々あると思うの。恋人の “好き” だけが好きじゃない。家族や友達への “好き” もあるし、動物が “好き” もあるでしょう? ハンジさんは巨人、ラドクリフ分隊長は花が好きだわ。人の数だけそれぞれの “好き” があるんじゃないかな?」
「……それはそうかもね」
ペトラは渋々認めたが、やはり不服そうで。
「でもそれと、私がオルオのことを好きは違うような…?」
「どうして? 好きだから腹が立ったのよ。私だってオルオが好きよ。だから話を聞いて嫌な気持ちになったわ。私の大切な友達のオルオを馬鹿にするなんて許せないってね。だからペトラだって同じよ、オルオのことが好きだから怒った。それだけのことよ。その “好き” がどういう “好き” かはわからないけど…。別に好きの種類を決めなくてもいいし、ペトラのオルオへの “好き” は、大切な想いのひとつだってことは間違いないと思うわ」
「………」
小難しい顔をして黙っているペトラの横顔を間近で見ながら、マヤはつづけた。
「私は兵長が好きでオルオも好き。ペトラも兵長が好きなんでしょう? よく言ってくれるじゃない、兵長も好きだしマヤのことも好きだって」
「そうだよ。兵長もマヤも好き」
「そこにオルオも加わるだけだよ、ね?」
「そうか…。なんかそんな気もしてきた。私って兵長やマヤを好きなように、オルオのことも好きだったんだ」
「そうだよ。好きな気持ちは自由で尊いものよ」
「自由で尊い…」
ペトラはマヤの言葉を繰り返して、一生懸命に自身の頭の中で考えを整理した。
「そうだね…。私はオルオのこと、好きなんだ。でも…、でも絶対オルオよりマヤの方が好きだからね! そこは忘れないでよ!」
「ふふ、そうね。わかったわ」
マヤの諭すような優しい声が子守歌代わりになって、ペトラはゆっくりと睡眠の沼に沈んでいく。その過程で繰り返す心の声。
……私がオルオを好き…?