第11章 紅茶の時間
「このカインって画家も、まさか自分の描いた絵にこんなに似てる人がいるなんて思ってもないだろうね」
マヤの言葉にペトラも、
「そうだね。もし会ったりしたらビックリするだろうね! ……まぁ、会う訳ないけどさ」
と返しながら、両腕を上げ大きく伸びをした。
「……でさ、兵長の話に戻るけど…」
ペトラは最後にどうしてもマヤに確かめたいことがあった。
「兵長、マヤと初めて話した訳じゃない?」
「うん」
「マヤが兵長と話して嬉しかったのはわかったけど、兵長の方は… どんな様子だった?」
「うん?」
ぽかんとしているマヤに、ペトラは少々苛立つ。
「……だから、兵長も嬉しそうだった?」
「ううん、別に」
「いや そんなはずない。嬉しそうだったでしょ? ちゃんと思い出して」
「うーん、でもいつもの怖い感じが多少ましだっただけで、相変わらず無表情だったし…」
マヤは、あっ!と思い出してつけ加えた。
「それになんだか急に機嫌が悪くなって出ていっちゃったの。私なんか見向きもされなかったよ」
「ふぅん… そうなんだ」
ペトラは立ち上がった。
「これからも会う機会あるだろうし、もし何か情報あったら教えてね」
扉に向かいながら頼むペトラの背に、もちろん! おやすみペトラ…とマヤの声が追いかけた。
ペトラは振り返ると、おやすみと笑いながら扉を閉めた。
自室に帰ったペトラは、ベッドに直行しそのまま眠りに就いた。
……リヴァイ兵長が、こちらをじっと見つめている。
手には湯気の立つ紅茶のカップ。
兵長の熱い視線に応えようとペトラも見つめ返すが、兵長はペトラを見ていなかった。
……マヤ…。
兵長が切ない声でささやいた。
ペトラの肩越しに兵長が見ているのはマヤだった。
ペトラが振り返ると、後ろに立っているマヤも兵長を揺れる瞳で見つめている。
兵長とマヤは、間にいるペトラがまるで存在しないかのように視線を絡ませている。
「ちょっと待って!」
叫ぶと同時にペトラは、がばっと起き上がった。
「夢か…」
あはは… 泣き笑いのようなペトラの声が、薄暗い部屋の中を行き場をなくして漂った。