第25章 王都の舞踏会
給仕はすぐに、トレイに飲み物を乗せて戻ってきた。
「どうぞ」
頼んだ水以外にもレモン水と、熱いおしぼり。
「ありがとうございます」
……きっと疲労回復にとレモン水も用意してくれて、熱いおしぼりまで…。
本当に優しい給仕さんだなとマヤは心から感謝した。
「はい、ペトラ。お水よ… レモン水もあるけど」
「あ~、レモン水くれる?」
受け取ったレモン水をごくごくと飲み干して、まるで訓練のあとの水飲み場で飲む水かのように声を出す。
「……ぷはぁっ!」
「ふふ、いい声!」
「えへへ」
「おしぼりもあるよ?」
「さすが、マヤ。気が利く~!」
「私じゃないの。おしぼりもレモン水も、あの給仕さんが持ってきてくれたの」
そう教えて振り返って、少し離れた場所で他の貴族を相手に仕事をしている給仕の方を見る。
「えっ、あの黒い髪の…?」
「うん。オルオと私にずっと、ノンアルコールのドリンクを持ってきてくれてたの」
「ふぅん…」
ペトラは熱いおしぼりを広げて、首すじやひじの内側をぽんぽんと当てるように拭いていく。
「はぁ、気持ちいい! あのボサボサ頭のおかげだね」
「もう! そんな言い方して」
「だって~、あの人さ… なんか犬みたいなんだもん」
「もしかして… オルオのおうちのそばの…?」
「なんで知ってるの?」
「オルオが近所にいたモップ犬みたいだって言ってたの」
「そうそうそうそう! モップ犬~! 懐かしい~!」
ペトラは隣に座っているマヤの肩をばんばんと叩きながら、大笑いした。
「二人して同じワンコを思い出すなんて、気が合うね」
「え~、やめてよ。私はカインさんと気が合うんだから…」
おしぼりを両手でもみながら、ペトラは照れくさそうに頬を染めた。