第25章 王都の舞踏会
「それで… 父上はグロブナー伯爵のことをあまり良く思っていないみたいだけれど、今もっとも勢いのあるのはグロブナー家でしょう? カイン様が参加なさると聞いて、来てみれば… あれでしょう?」
踊っているカインとペトラを見て、ため息をつく。
「カイン様でもいいかなと思ったのに…」
「そうね、カイン様もレイモンド様ほどではないけど、とてもハンサムでいらっしゃるもの」
「でも、お相手がもういらっしゃるみたいだから、どうしようもないわよ」
「……本当に誰なのよ、あの田舎娘は! まともに踊れもしないなんて、話にならないわね」
その後散々、素性のわからないペトラの陰口を叩いてから、三人娘は大広間を出ていった。化粧直しにでも行ったかと思われる。
「……なんなんだよ! 田舎娘田舎娘ってよ! 貴族の娘かなんだかしらねぇけど、ペトラの方がよっぽど可愛いわ!」
オルオが悪態をつく。
「オルオ、落ち着いてよ」
「あぁ~、ムカつく。ちょっと便所に行ってくる」
「はぁい」
オルオが出ていって、マヤはひとり壁を背に立っていたが、“あっ!” と思わず声が出る。
ずっと離れることなく踊りつづけていたカインとペトラがフロアの中央から出たのだ。
慌てて目で追うと、カインは父親のグロブナー伯爵に呼ばれたらしく彼のそばに行き、ペトラが一人になっていた。
急いでペトラのところへ行く。
「ペトラ!」
「マヤ!」
やっとペトラの気持ちを聞き出せる。
「大丈夫なの?」
「うん。ずっと踊ってたから、足が疲れちゃった」
「じゃあ…」
マヤはきょろきょろと周囲を見渡し、誰も座っていないソファを見つけた。
「あそこに座ろ?」
「オッケー」
ペトラを座らせると、喉が渇いているだろうとあの給仕を探す。
もさもさの黒髪のオルオ曰く “モップ犬” みたいな給仕は、すぐに見つかった。
「ペトラ、ちょっと待ってて」
マヤは給仕のところに行って、水を頼んだ。
給仕はソファに座って疲れた様子でいるペトラをちらりと見てから、大広間を出ていった。