第25章 王都の舞踏会
「さぁ…。あたしが来たときにはもうすでに、あのように人目もはばからずにべったりと… でしたのよ?」
「まぁ、恥知らずな! カイン様もカイン様ですわね、ホストのくせにあんな誰とも知れない小娘とばかり踊って」
「本当にあの女の素性を知らなくて?」
「垢ぬけない田舎娘に違いなくてよ」
貴族三人娘のおしゃべりに耳をそばだてていたオルオとマヤだったが、ペトラの悪口に腹が立ってくる。特にオルオは今にも怒鳴りこみそうな様子で握ったこぶしが少し震えている。
「……オルオ、抑えてよ?」
ここでオルオが出ていったら、情報が収集できなくなる。マヤはすかさず小声でオルオに釘を刺した。
「……わかってるって」
貴族令嬢たちの噂話はつづく。
「ところでレイモンド様は?」
「おいでになっていないみたいよ」
「あら…、残念! レイモンド様さえ拝めたら、他の殿方はどうでもいいくらいですのに」
「そもそもバルネフェルト公爵もいらっしゃらないし、招待されていないのではないかしら?」
「そんなことはないと思うわ。最近、グロブナー伯爵は積極的にバルネフェルト公爵やロンダルギア侯爵、シッテンヘルム侯爵に何かにつけてお近づきになるよう仕掛けていると父上が話していたわ。あまりにも露骨でいやらしいとも。だから絶対にレイモンド様にも招待状は送られているはずよ」
「そうですのね! やっぱりお詳しいわ…。バネッサは、私たちの中で一番レイモンド様にお近いんですもの。本当にうらやましいわ」
「ええ、バネッサならレイモンド様とお似合いだわ」
バネッサと呼ばれた令嬢は三人の中で一番派手な顔立ちで、父親の爵位も上らしい。
「あたしは別にレイモンド様でなくても全然かまわないのよ。あんなつれない人、こちらからお断りだわ」
「そうなんですの?」
「ええ。お茶会にお誘いしても、なしのつぶてですもの…」
バネッサは悲しそうな表情を一瞬したのちに、キッとフロアを見据えた。
「だからレイモンド様なんかよりもっとお優しい殿方に出会いたいのよ」