第25章 王都の舞踏会
「えっ、そんなこと… ないけど…」
恥ずかしさから急速に勢いをなくすマヤ。
「でもよ、ペトラだって兵長が好みなんだろ? なんであんなヤツと。兵長と全然タイプが違うじゃん」
「あぁ… うん、そうだね」
「女ってわかんねぇよな…」
ぽつりとつぶやいたオルオの横顔は淋しそうで。マヤは胸を締めつけられた。
「ほら、でも、きっと。一時の気の迷いだと思うよ? あんな可愛いだとかお姫様だとか言われたら、ああいう反応になるのかも。そのうち我に返るよ」
「……だといいんだけどな!」
やけっぱちな薄笑いを浮かべていたオルオだったが、急に真面目な顔をした。
「でもよ、あのカインってヤツ…」
「ん?」
「ヤなヤツだけど、女の趣味はいいよな。そこは認めるわ」
「あはっ、うん、そうだね! 私もペトラは可愛いと思うもん。オルオも私もこんな出会い方じゃなかったら、カインさんといいお友達になれたかもね」
「ならんわ! あんなパパとか言うヤツ!」
「あはは」
二人はしばらく腹を抱えて笑っていたが、聞こえてきた会話に耳を澄ます。
「ねぇ、あのずっと真ん中で踊っているのってカイン様ですの?」
「……らしいわ。あたしもお初にお目にかかるから、よくわからないんだけど」
いつの間にかに三人の貴族の令嬢がすぐそばに来ていて、カインの噂話を始めたのだ。
「一度も社交界に出てこなかったのは、どうしてかしら?」
「社交界どころか、外出すら滅多にしないというもっぱらの噂よ」
「そうなのね…。なぜかしら? なぜ外にお出にならないのかしら?」
「さぁ…。噂では特別な才能がおありで、ご多忙だそうよ」
「特別な才能って?」
「なんでも舞台の脚本を書いているとか」
「あら、私は絵を描いていると聞いたわ」
「そう…。どちらにしてもお部屋にこもるのね。だからあまり外に出ないのかしら?」
「そういうことだと思うわ」
そこまで話し合った三人の貴族令嬢は、フロアの中央で踊っているカインを見つめる。
「ハンサムだわ…」
「そうね、今までお会いできなかったのが残念でたまらないわ」
「……というかあの女は誰ですの?」
……ペトラのことだ!
マヤとオルオは、顔を見合わせた。