第25章 王都の舞踏会
グロブナー家の使用人は不思議なことに、全員が見目麗しい。
貴族の屋敷で働く者となれば外見も採用基準に含まれているのか、あるいはグロブナー伯爵の嗜好で美男美女を雇っているのかは定かではないが、とにもかくにも今まで会った使用人… 有能な執事も、メイド長のサリーも、数多くいるメイドや給仕も全員が、くっきりした目鼻立ちである。
しかし、マヤとオルオに親切にノンアルコールのドリンクをずっと運んでくれたこの給仕だけは、美醜がよくわからない。
なぜならば、顔の半分ほどが長い前髪で隠れてしまっているのだ。大げさに言ってしまえば、鼻と口しか見えない。
もしかしたら彼は、この美男美女だらけの館で働くには少し、その基準に足りていない顔立ちなのかもしれない。
だがマヤには彼の優しい気遣いが、誰よりも気高く美しいと思った。
「あの給仕さ、モップ犬みたいだよな」
「モップ犬…?」
「俺んちの近所によ、全身モップみたいな犬がいたんだよ。目が完全に毛で隠れてて、鼻と年中ハァハァ言って出ている舌しか見えねぇの」
ニヤニヤしながら話すオルオに、マヤは少々むっとする。
「へぇ…。でもあの人はハァハァなんか言ってないけど? あんないい人に失礼なこと言わないで」
「まぁ確かにいいヤツそうだな。ずっと紅茶とか葡萄水とか運んでくれてるもんな」
「そうよ、ハンサムかもしれないけど “いけ好かない” カインさんより、よっぽどかっこいいと思うわ」
「はいはい。ってかよ、やっぱりあのカインはハンサムなのか?」
「うん、まぁ一般的に誰が見てもかっこいいんじゃないかな?」
マヤはあごに手を当てて、少し考えてからそう答えた。
「一般的ねぇ…。マヤもああいうのが好みなのか?」
「いや、私は全然! かっこいいかもしれないけど好きじゃない」
ぶんぶんと勢いよく顔を横に振るマヤ。
「あっ、悪ぃ。マヤの好みは兵長だったよな!」