第25章 王都の舞踏会
それからしばらく経って。
「オルオ、暇だね…」
「そうだな…」
マヤとオルオは完全に壁の花になっている。
エルヴィンとリヴァイは貴族たちに囲まれて、いつの間にやら目の届かないどこかへ行ってしまった。
ペトラとカインは相も変わらず、フロアの中央であたかも数年来の恋人同士かのように、べったりと密着して体を揺らしている。
優雅な猫足のテーブルにならべられているのは、もうカナッペではない。
皿にまだ残っていても時間が来れば、給仕たちが現れて新しい料理の皿と交換していく。今テーブルの上を鮮やかに彩っているのは、ローストビーフと、細いグラスに入れられたスティック状のきゅうりや人参、ラディッシュにミニトマト。
貴族の誰からも相手にされず、ひたすら壁際からペトラとカインを見張っているマヤとオルオは、食べることしかすることがない。
最初は次から次へと運ばれてくる上等で美味しい料理に夢中になっていたが、それも満腹になれば苦痛なだけだ。
マヤは着慣れないドレスで普段よりは量が食べられず。
オルオはまさか、こんなにもどんどんとご馳走が運ばれてくるとは知らずに、最初に出されただけ全部を平らげてしまったのだ。
給仕は料理を運ぶとき以外は、常にドリンクが乗ったトレイを片手にフロアを巡回している。
それも何杯飲んでもかまわないのであるが、マヤとオルオはペトラを見守るという重大な仕事があるゆえ、自重していた。
アルコールには手を出さず、アイスティーや葡萄水を。
もちろん給仕はアルコールしか持っていなかったのだが、マヤは思いきって、こう頼んでみたのだ。
「すみません。私たち、お酒を飲めないんです。お水をいただけませんか?」
するとその給仕は、水ではなくアイスティーを持ってきてくれたのだった。そしてその一回だけではなく、その後ずっとマヤとオルオのそばをまわるときには、アイスティーやレモン水、葡萄水など、アルコールの入っていない飲み物を用意してくれた。
その心遣いが嬉しくて、礼を言う。
「ありがとうございます。ずっと気にかけていただいて…」
「……いえ」