第25章 王都の舞踏会
「兵長! それそれ、それっす!」
オルオが激しく同意する。
言葉は悪いが、ひとことで簡潔にカインに抱いている不信感を表現してくれたリヴァイに感謝の気持ちをこめて、マヤは微笑んだ。
……困っていたら、兵長が来てくれた。嬉しい…!
少し離れた今までリヴァイが立っていたところには、リヴァイに置き去りにされた貴婦人たちが不満そうに頬をふくらませている。
「エルヴィン、俺もこいつらの感覚と同じだ。あのキザ野郎は信用ならねぇ。だが…」
リヴァイはフロアの中央で踊っているペトラの方に視線をやる。
ペトラは遠目に見ても、幸せそうに笑っていた。
「ペトラが自らすすんで、あそこにいるのも間違いねぇ。だから…」
今度はマヤとオルオを見ながら。
「見守るしかねぇな… 今は」
「「はい…」」
リヴァイの言葉に素直にうなずくマヤとオルオ。
「リヴァイ。レディたちがお待ちだ」
エルヴィンが、かたまってこちらをじろじろと見ている貴族の娘たちの群れに、ちらっと視線を向ける。
「チッ、待たせておけばいいだろう」
「いや、行くんだ。これは任務だ。ここにいる以上、あきらめろ」
エルヴィンは厳しい顔で告げたが、次の瞬間にはふっと笑う。
「お前は立っているだけだから楽だろうに…」
「そうかもしれねぇが、あいにく俺はお前と違って “武勇伝” とやらを吹聴する達者な口は持ってねぇからな」
「ははは、勘弁しろよ。お前の武勇伝が一番受けがいいんだ」
「チッ、勝手にあることないことオーバーに話しやがって」
「わかったわかった。では次からリヴァイ、お前が自分で話してくれ。その方が貴族たちは喜ぶだろうよ」
「………」
エルヴィンに言い負かされて、リヴァイは苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。
「さぁ、行け」
リヴァイは渋々、貴族の娘たちの待つところへ戻りかけたが、立ち止まった。
「オルオ、マヤ…。まぁせいぜい… あのカインとやらが真正のクズ野郎でないことを祈るんだな」
そう言い残して行ってしまったリヴァイの背を見ながら、オルオとマヤは力なく “はい…” とつぶやいた。