第25章 王都の舞踏会
「……なるほど。事情は大体わかりました。ペトラ」
「はい!」
エルヴィンに急に呼ばれて、カインの綺麗な横顔に見惚れていたペトラは慌てて返事をした。
「踊りたかったら踊ってかまわない。ただし思慮分別のある行動を心がけるように」
「了解です」
「よし! これで団長さんの許可も得た訳だし、さぁペトラ! 僕と踊ってくれるよね?」
再び芝居がかったポーズでお辞儀をして、右手を優雅に差し出した。
「あっ、あの… 私、踊れません」
断るペトラ。
手を取り合って喜ぶオルオとマヤ。
ショックを受けて、その端正な顔立ちが曇るカイン。
「……冗談だよね? 僕のお姫様。この僕の誘いを断るなんて、かなり趣味の悪いジョークだな!」
「いえ、そうではなくて…。ダンスなんかしたことないし…」
ペトラはもじもじと、恥ずかしそうにうつむいた。
途端にカインの顔が、ぱぁっと晴れる。
「なんだ! そっちか! そうだよな~。この僕の誘いを断るはずがないんだよな」
うんうんと一人で悦に入ってうなずくと、まだ正式に承諾していないペトラの手を握った。
「踊れなくてもいいよ。ただ僕に身をゆだねてくれたら。さぁ、おいで!」
「……あっ!」
カインは強引にペトラを連れて、フロアの中央に行ってしまった。
「……行っちゃったよ…?」
「……行っちゃったな…」
青ざめるマヤとオルオ。
しばらくは二人そろってぽかんと、遠くで踊っているというか、ただ密着して体を揺らしているカインとペトラを眺めていたが。
はっと正気を取り戻した。
「「団長!」」
貴婦人たちの華やかな群れに帰ろうとしていたエルヴィンを呼び戻す。
「なんだね」
「なんだねじゃないです!」「なんだねじゃないっす!」
語尾こそ違うが同じセリフを同じように眉を吊り上げて放ったマヤとオルオに、エルヴィンは愉快そうに笑った。
「おや、気が合うな」
「気が合うなじゃないです!」「……っす!」
はっと互いの顔を見て、一瞬で意思の疎通を図った。
……私が団長に話すね!
……おぅ、任せた!