第25章 王都の舞踏会
「それは光栄至極です。気に入っていただけたついでに、もう一つだけ、よろしいですか?」
「それだよな~!」
カインはくだけた調子で上機嫌だ。
「“一つだけ訊きたい” とか言ってきて、一つで終わった試しがないよな。でもまぁ、いいよ! 僕、団長さんのこと好きだから」
「かたじけない。では遠慮なく。ペトラを見初めたとのことですが、そもそも接点などないはずですが?」
「はっはーん! 僕とペトラとの馴れ初めを聞きたい訳か。意外と俗物なんだね、団長さんは」
カインの失礼な物言いにも、エルヴィンの太い眉はぴくりとも動かない。
「あれは…」
芝居がかった様子でカインは両手を広げ、何かを思い出すかのように斜め上を見上げる。
「たまたま僕が、あなたたち調査兵団の出陣に居合わせた日のことだ。めずらしいものを見物できたと喜んでいたら、隊列の先頭に僕の理想の女が馬にまたがっているじゃないか…」
カインはごてごてと装飾を施してある高い天井から、ペトラに視線を移した。
「我が目を疑ったよ! 僕の理想の顔に出会えてね!」
「………!」
臆面もなく “理想の女” “理想の顔” と面と向かって言われて、ペトラの顔は沸騰してしまいそうに赤くのぼせ上っている。
「……そうでしたか」
「そうなんだよ、団長さん。僕はこう見えても節度は守るタイプなんだけど、パパが舞踏会をひらくって聞いたら我慢できなくなったんだ。だから無理を言って、あなたたちを呼んだって訳だよ」
……パパ?
……おい今、パパって言ったよな?
マヤとオルオは顔を見合わせる。
マヤは急いでペトラの顔を見ると、完全に熱に浮かされたような状態でカインの怪しさに気づいてもいない。
次にリヴァイ兵長を見れば、離れたところからでもはっきりとその本数を数えられそうなくらいに、眉間に何本も縦ジワが刻まれて、今にも吐きそうな顔をしている。
だがエルヴィンは、またもや全く意に介していないようだった。