第25章 王都の舞踏会
「カイン卿、ペトラの気持ち次第ではあるのですが…。その前に、一つ伺いたい」
「なんでも訊いてくれてかまわないよ?」
カインは涼しげに笑っている。
「お父上の伯爵から賜った寄付には感謝しています。そして今宵の舞踏会へのお招き…。私やリヴァイ兵士長ならよくあることと受け流せますが、一兵士を名指し、それも特注でドレスをしつらえて… となると通常の事態ではありません。無礼は承知で、ペトラを指名した理由をお聞かせ願いたい」
びしっと一直線にペトラ指名の理由を問いただしたエルヴィンの行動に、カインが出現してからずっと、そのはちみつ色の長髪を睨みつけていたオルオは安堵した様子だ。
マヤもカインの気障なセリフに何か信用のできないものを感じ不安に思っていたが、当のペトラがカインの麗しいハンサムな見た目にぽーっとなってしまっている。伯爵のご子息を相手に無粋な態度も取れないし、どうやって間に割って入ろうかと考えていたところへエルヴィン団長がきちんと質問をしたことで、とりあえずはほっと胸を撫で下ろした。
「あはは、なんだ、そんなこと」
カインは長い前髪をかき上げて、軽やかに笑った。
「そんなの決まってるじゃないか。僕がペトラを気に入ったからだよ。そんな簡単なことを怖い顔をして訊かれるとは思ってもみなかったな。それともあれかな? 壁の外で巨人を相手に飛びまわっていると人間関係には疎くなったりするのかな。あははは」
友好的に笑っているように一見思えるが、その言葉の端々には調査兵をどこか小馬鹿にしたニュアンスが確実に含まれており、オルオは再びカインを睨みつけ、マヤも眉をひそめた。
しかしエルヴィンは、
「ははは、なるほど。確かにそんな単純な理由をわからないなんて愚の骨頂でしたね。巨人を相手にしていると男女関係の機微にも大ざっぱになるんでしょうね、巨人だけに」
などと別に面白くもなんともない返答をしたりして、一向に気にしていない様子だ。
「あははは! 面白いな、団長さんは。気に入ったよ!」