第25章 王都の舞踏会
「えっ、あっ…、団長…!」
ペトラは困った様子でエルヴィンに助けを求めた。
エルヴィンとリヴァイはもちろん、カインがペトラに近づくところから見ていた。
ペトラ、マヤ、オルオの立っている場所から少し離れたところで貴婦人たちに囲まれていた二人。
エルヴィンはにこやかな笑みを浮かべ、完璧な相槌を打ちながらも実際のところは、全く貴婦人たちの話など身を入れて聞いていなかった。
リヴァイもしかり。リヴァイの場合は愛想の良い表情すらなく、ただ不機嫌そうに立っているだけであるのに、貴婦人たちは満足らしい。
きゃあきゃあと騒がれている二人は、カインの一挙一動から目を離さずにいた。
……恥ずかしげもなく “僕の理想のお姫様” とは。なかなかの坊ちゃんだな。今のところは、大した害もなさそうだ。
……なんなんだ。あのキザなクソ野郎は。
エルヴィンとリヴァイはそれぞれ、そう値踏みしていた。
カインのペトラへの熱烈な賛美攻撃も終わり、ダンスに誘っている。舞踏会なのだから、ある意味当たり前の行為なのだが、場慣れしていないペトラは困惑し助けを求めてきた。
「……失礼。またのちほど」
エルヴィンは自身を取り囲んでいる美しい花々にそうひとこと告げてから、カインとペトラの方へ歩み寄る。
「グロブナー伯爵のご子息ですね?」
エルヴィンのバリトンボイスに振り返ったカインは、兵服を見てすぐに誰だか理解したようだ。
「そのとおり。あなたはエルヴィン団長だね?」
そう言うと、頭をかいて非礼を詫びた。
「いや~、まずはペトラの上司のあなたに挨拶すべきだったな。あまりにも彼女が可愛いもので、我を忘れて礼を失してしまったよ。あらためて団長さん、ペトラにダンスを申しこんでもいいかな?」