第25章 王都の舞踏会
振り向いたペトラとマヤの瞳に飛びこんできたのは。
すらっとした細身の男性。
はちみつ色の髪はさらさらとして、肩より少し長い。顔にかかる前髪は長めで、その奥からこちらを、いやペトラだけを凝視している瞳の色は目の覚めるようなアイスブルー。
見るからにノーブルな雰囲気のハンサムな優男。
「あの…、あなたは…?」
ペトラはとっくに答えはわかっているのに、気がつけば口が勝手にそう訊いている。
「レディに名乗りもせずに失礼。あなたが可愛すぎて… つい」
………!
歯の浮くような気障なセリフにペトラは顔を赤くする。
「僕は、カイン・グロブナー。ペトラ、あなたを呼びつけたのは僕だよ。来てくれて嬉しいな」
ペトラは貴族と話すのも初めてだし、舞踏会に招待されたときの挨拶なんてものも全然知らない状態だったが、先ほどエルヴィン団長がグロブナー伯爵にしていた挨拶を思い出して、そっくりそのまま真似をした。
「調査兵団特別作戦班のペトラ・ラルです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「あはは」
カインは爽やかに笑って、白い歯をのぞかせた。
「そんなにかしこまらなくて大丈夫だよ」
「はい…」
「ドレスが似合ってるね」
そう言って全身を舐めまわすように見る。
「僕の望みどおりに白いドレスを着て、顔を赤くしているペトラは、僕の理想のお姫様だよ。こんなにも可愛いなんて想像以上だ」
「あ…、ありがとうございます…」
可愛いだの、理想のお姫様だの並べ立てられて、ペトラは恥ずかしそうにしている。いまや耳まで真っ赤になっている。
「お姫様、お手をどうぞ」
カインは優雅な所作で腰をかがめると、右手を差し出した。
「僕と一曲…、いやずっと踊っていただけませんか?」