第25章 王都の舞踏会
奏でられたワルツに誘われるように次々と、貴族たちは自然と男性が女性の手を取って、二人一組となり踊り始めた。
舞踏会など初めてのマヤは、始まれば居合わせた全員が必ずフロアに躍り出て、ダンスを披露しなければならないものかと考えていたのだが、そうでもないらしい。
ワルツを踊っている男女は大広間に集まっていた貴族たちの半数くらいであろうか。
残りは踊っているカップルを横目で見ながら歓談している。
音楽が流れると同時に扉からは、たくさんの給仕たちが銀色のトレイを手に入ってきた。
手際よくテーブルに、見た目も楽しい鮮やかな色合いの具材を乗せたカナッペをならべる。
マヤたちのテーブルにも、見目麗しい給仕が一人やってきて、カナッペの皿を置いた。
「うわ~、美味しそうだね!」
ペトラが早速、歓声を上げる。
「応接間で出たケーキやサンドイッチのときも思ったけど、ほんと芸術作品みたいに綺麗で、食べちゃうのがもったいないね」
マヤは今までに見たことのないようなカナッペに感激している。
一番に目を引くのが、ひと口大のクラッカーの上にメロンが乗っていて、その上に生ハムがかけられているもの。
その他にもチーズを乗せたもの、ゆでた野菜を刻んでペースト状にしたものを絞りだしたもの… 人参ペーストは鮮やかなオレンジ、トマトペーストは情熱的な赤。
「「いただきます!」」
ペトラとマヤは声を合わせて視線を絡めると、仲良くカナッペに手を伸ばした。
もちろん一番豪勢な生ハムメロンのカナッペに。
「美味しい~!」
「美味しいね! 生ハムの塩っけがメロンの甘さを引き立ててる。甘じょっぱいね」
「うんうん、それそれ!」
マヤの具体的な感想にペトラが激しく同意したそのとき。
「僕のお姫様は、食べてる顔も可愛いな!」
聞いたことのない少し甲高い声。
カナッペに夢中になっていたペトラとマヤは、全く気づいていなかった。
いつの間にかにグロブナー伯爵の子息が、隣に立っていたことを。