第25章 王都の舞踏会
大広間というだけあって、かなりの人数がワルツを踊ってもステップを踏んでも余裕がある広さのフロア。豪勢なシャンデリアの光がきらきらと空間を彩り、集まりつつある貴族たちのさざめきが漂っている。
壁際にはワインレッド色をしたベルベットの布張りのソファが適度な間隔をあけて置かれている。猫足が優雅な小さなテーブルもここかしこに配置され、ミモザのグラスの鮮やかな黄色がまるで、フロアの野に咲いた花のようだ。
ダンスの音楽を奏でる楽士たちが、それぞれの楽器の最終のチェックをしていて時折短く音が漏れる。リィッと高いヴァイオリン、ブォンと低いホルン、シャンと楽しげにシンバル。
すでに集まっている貴族や名士が思い思いの場所… フロアの真ん中だったり端の方だったり、ソファに腰をかけたり手にミモザのグラスを持ったりしながら小さなグループを形成して歓談している。
紫檀のドアはいまや開放され、続々と貴族が入室してきている。男性はタキシードや燕尾服の白と黒、女性はイブニングドレスやカクテルドレスの白、赤、青、黄、緑、桃、紫、水色など。フロアはこれぞ社交界といった華やかな色であふれて。
「いっぱい人が集まってきたね」
ペトラが言えば、大広間に集まった貴婦人の美しいドレス姿に魅せられたように、ぼーっと眺めていたマヤが目を輝かせた。
「うん。皆さん、すごく煌びやかで堂々としていて綺麗!」
「そりゃ貴族の人は慣れてるだろうし、自分たちの見せ方を知ってるんだよ」
「綺麗な人ばっかり。すごいなぁ…。あっ、でもペトラはこんな綺麗な人たちを差し置いて、ご子息に気に入られてるんだよね。すごい!」
「それなんだけど、じきに来るって伯爵は言ってたけど、全然来ないね。どうなってるんだろ」
「そうね…。もう結構集まってるし、始まっちゃうよね…?」
と、そのとき。
ジャーーーーーン!
楽士が両手に持ったシンバルを鳴らした。
大広間のさざめきが一瞬で静まり、いよいよ舞踏会が始まるんだといった高揚感と熱気がふくらむ。
「紳士淑女の皆様、今宵は当家の舞踏会にお集まりいただきまして誠に恐縮でございます。どうかこのあでやかな夜の更けるまで、存分にお楽しみください」
グロブナー伯爵の挨拶がよどみなく終わるやいなや、心地良い音量で静かにワルツが流れてきた。