第25章 王都の舞踏会
ホストであるグロブナー伯爵は挨拶まわりに忙しいらしく、次に大広間に入ってきた貴婦人の方へ大急ぎで行ってしまった。
「……これはこれは、シッテンヘルム侯爵夫人!」
伯爵のすり寄っていく様子を見て、これがエルヴィン団長とリヴァイ兵長が話していた “自分より上の貴族ばかりを集めて媚を売る” ということなのかな? とマヤは思った。
「我々は、あのあたりに陣取ろうか」
エルヴィンは慣れた感じで人のいない一角へ。
そこは小さなテーブルがあり、ウェルカムドリンクが用意されていた。小さなグラスにオレンジジュースらしきドリンクがずらっと並んでいる。輪切りにしたオレンジがグラスのふちに飾られていて気分が上がる。
「団長! このオレンジジュース、飲んでいいんですか?」
「かまわないが、それはミモザという酒だから一杯だけにしておきなさい」
「お酒だって!」
ペトラは嬉しそうにグラスを取り、くいっと一杯。
「美味しい! 美味しい!」
二度も叫んでいるペトラを見ていると、マヤも我慢できなくなって飲んでみる。
まずはふわっと濃厚なオレンジの風味が香り、爽やかな酸味が後味を引きしめる。新鮮なオレンジの生絞りをそのままグラスにぎゅっと閉じこめた味わい。
「……ほんと、美味しい!」
マヤも顔を輝かせた。
「ね~! オレンジジュースだよね」
「そんなに美味いのか?」
オルオも手を出した。
「うわっ、なんだコレ! すっげー美味ぇオレンジジュースじゃん!」
「だよね~! こんなのカラネス区にもヘルネにもなかったよね」
「おぅ、そうだな!」
「もうちょっと飲もうかな?」
「俺も!」
ペトラとオルオが盛り上がって、もう一杯飲もうと手を伸ばしたところへ。
「……エルヴィンが一杯にしろと言っただろうが」
リヴァイに睨まれてしまった。
「「すみません…」」
叱られてしょんぼりとしている二人に、マヤが声をかける。
「きっと他にも美味しいものがいっぱい出てくるよ。楽しみにしとこ?」
「そうだね!」
すぐに持ち前の明るさを取り戻したペトラは、きょろきょろとフロアを見渡した。