第25章 王都の舞踏会
毛足の長い絨毯に足を優しく撫でられて、調査兵団一行は執事に案内され大広間へ進む。
執事の足が止まる。
大きな重厚な雰囲気の扉はアーチ型で、その木肌は紫檀独特の赤みを帯びており、よく磨かれて上品な光沢を放っていた。
扉には彫刻が施されているのだが、それはやはり剣に蛇が巻きついているグロブナー家の紋章だ。
「近くで見たら不気味な模様だね」
ペトラが小声でマヤにささやく。
うなずいたマヤがその紋章を見上げれば、剣にぐるぐると巻きついている邪悪そうな蛇と目が合った気がして悪寒が走った。
「調査兵団団長エルヴィン・スミス様ならびにご一行様がお越しになりました」
勢いよく開け放たれた扉とともに執事が朗々と美声を響かせた。
まだ恐らく定員の半数も集まってはいない様子のフロアの中央で、色とりどりのドレスの貴婦人に囲まれていた一人の初老の男性が急いでやってきた。
にこやかな笑顔をはりつけている。
「私が当主のアンリ・グロブナーだ」
「調査兵団団長のエルヴィン・スミスです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「急な招待になったが、よく来てくれた。君が…」
エルヴィンの斜め後ろに控えていたリヴァイに目をやる。
「かの有名なリヴァイ兵士長かな?」
グロブナー伯爵はエルヴィンに負けず劣らずの高身長で、リヴァイは自然と見上げる格好になった。
「……そうだ」
「人類最強の兵士の噂は聞いているよ。あとでゆっくりと私にも話を聞かせてくれるね?」
「………」
黙っているリヴァイに代わって、エルヴィンがにこやかに返答した。
「仰せのとおりに」
次に伯爵はリヴァイの後ろに三人でかたまって立っているオルオ、ペトラ、マヤを見やる。
「そしてそこのお嬢さんが…、ペトラだね?」
純白のドレスを着ているペトラに笑いかけた。
「はい」
「息子がどうしても君に来てもらいたいと一歩も引かなくてね。もうじきに来ると思うから、相手をたのむよ」
「……はい」
「そのドレス、似合っている。気に入っただろうね?」
「……はい」
「息子も喜ぶだろうな。くれぐれもよろしくたのむよ」
「……はい」
任務のときのように了解と答える訳にもいかず、ただ、はい、はいと繰り返すしかないペトラだった。