第25章 王都の舞踏会
「団長や兵長はそれぞれ一人しかいなくて、俺ら一般兵を指揮してるじゃないっすか。それこそ俺らを “駒” として動かしてる。なのに自分たちもただの駒だなんて、言ってることがめちゃくちゃっす」
「はは、それは違う。確かに君の言うとおり私は調査兵団に一人しかいない団長で、君ら一般兵を “駒” として指揮している。だが上に立とうが下に居ようが調査兵団という組織に属しているかぎり、すべての者はただの駒にすぎない」
エルヴィンはそこまで話してから、ふっと優しいまなざしになる。
「オルオ、チェスはするかい?」
「いえ…」
唐突とも思われる質問に、オルオは首をかしげた。
「なら覚えた方がいいな。この先、ピクシス司令と膝を交えるときがくるかもしれない。チェスができるとなると司令が喜ぶぞ」
「……はぁ」
……なんでチェス?
オルオはエルヴィンが何を言いたいのかさっぱりわからなかったが、“あっ、駒の話だからか” と気づいた。
「組織においてもっとも重要なのは、一見 “上に立つ特別な人材” のように思えるが、そんなことはない。その人材と等しく価値があるのは “その場そのときその指令に沿って適切な行動を取ることができる普通の人材” なんだ。そしてその普通の人材こそが特別な存在になることだって往々にしてある。平凡なポーンが最強の駒であるクイーンになるように」
「………」
わかったような気もするが、チェスをやらないし、やっぱりよくわからない。
オルオが黙っていると、今度はリヴァイが口をひらいた。
「オルオ、お前は心臓を捧げたよな?」
「はい」
「俺もだ。そしてエルヴィンも、ミケもハンジもラドクリフも。ペトラもマヤも…。心臓を捧げた者は皆、等しく駒だ。そこに… 上に立ってるとか下で動いてるとかねぇんだよ」
……なるほど、そうか。
オルオはやっと納得して、リヴァイをまっすぐに見つめ返すと大きくうなずいた。