第25章 王都の舞踏会
「……兵長! 兵長からも団長に言ってくださいよ! ペトラを、そんな… 駒の一つみたいに!」
興奮でうわずるオルオの声とは対照的に、リヴァイの声にはなんの感情の揺れもない。
「いいから座れ」
有無を言わせぬその声にオルオは本能的に従った。
「……お前は何もわかっちゃいねぇ」
不満そうに顔をゆがめているオルオにリヴァイは静かに語り始めた。
「俺たちは駒にすぎねぇんだよ」
「は? 何を言ってるんですか! “俺たち”? そんなこと思ってないっすよね? 兵長や団長は自分らは違うって、特別なんだって…」
オルオがまくし立てているときに扉がノックされ、執事が紅茶を運んできた。
かちゃかちゃとティーポットやカップをテーブルに置く音だけが響く。
執事は三人のあいだに流れている微妙な空気に気づいているのか、余計な社交辞令は何も口にせず黙々とお茶のセッティングをしている。
……有能だな。
エルヴィンは内心で感心した。
今みたいな空気のときに、上辺だけの世辞を並べられても皆が苛立つだけだ。かといって平穏なときに無言でセッティングされても居心地が悪い。
有能な執事はあっという間にテーブルをセッティングして紅茶を淹れると、静かに一礼をして退室した。
「オルオ、言いたいことはあるだろうが… まずは紅茶を飲もうか」
そして自らすすんでエルヴィンはティーカップを手に取った。それを見てリヴァイも黙って紅茶に口をつける。
「………」
オルオも渋々、優雅な形で大きな薔薇の花が描かれたティーカップに淹れられた熱々の紅茶を飲んだ。
しばらくしてオルオも少しは落ち着いた様子になったように見受けられ、エルヴィンは静かに話し始めた。
「オルオ。私もリヴァイも誰だって、組織においてはいくらでも代わりのきく… ただの駒にすぎない」
「そうは思えないっす」
紅茶をゆっくりと飲んだ効果なのか、オルオはもう食ってかかるような真似はしなかった。