第25章 王都の舞踏会
オルオはエルヴィン団長の最後の言葉が気にかかる。
……鍛錬した肉体を使うって、どういう…?
だがそれをストレートに “どういう意味ですか?” と質問するのは、はばかられるような雰囲気がある。特にリヴァイ兵長からは。
エルヴィンの話はつづいている。
「ペトラに無理強いするつもりはないが…。もし伯爵のご子息がペトラに好意を持っての今回の一連の行動であるならば、それを大いに利用したいというのが正直なところではある」
「それってペトラに、伯爵の息子に気があるふりをしろって意味っすか?」
オルオの頬が少し紅潮している。
きっと… 怒りだ。
「はは、そうダイレクトに言ってしまえば身も蓋もないが… そのとおりだ」
「そんなのって…!」
「無論ペトラの意思を尊重する。嫌なら、そんなことをする必要はない。だが、これは大きなチャンスだ。ペトラの言葉ひとつ、行動ひとつで寄付の金額が変わる可能性がある。それに…」
エルヴィンはオルオの赤くなっている顔を真正面から見つめた。
「ペトラが嫌がると決めつけるのは早計だろう?」
「……嫌に決まってるじゃないっすか! そんな会ったこともないやつなんか」
「どうかな」
エルヴィンは意味ありげに含み笑いをしている。
「二人は今から会う。出逢ってしまえば男女の仲は何が起こるかわからないものだよ。ご子息は… なんの欠点もない色男かもしれない。おまけに伯爵家の跡取りだ。ペトラにとって悪い話では存外ないのではないかな?」
オルオはいつしかきつくこぶしを握りしめ、ぶるぶると震わせていた。
「エルヴィン団長…。俺、団長のこと見損ないました。尊敬してたのに…、そんなことを言う人だったとは!」
「君にどう思われようが一向にかまわない。私は可能性を話しただけだ」
オルオは怒りを抑えきれずに立ち上がったが、リヴァイの低い声がそれを制した。
「座れ」