第11章 紅茶の時間
「話の腰、折っちゃったね」
ごめんとマヤは両手を顔の前で合わせた。
「……兵長が奇行種五体を一瞬で片づけてどうなったの?」
「うん… そのとき兵長、いつもと様子が違っててさ、なんかこう全身からアドレナリンが放出されてる感じで…」
枝の上での兵長の様子がありありと目に浮かんで、マヤは大きくうなずいた。
「それで私が兵長の様子に驚いてたら、エルドさんが教えてくれたの。“あれが本気を出したときの兵長の姿だ、壁外でも滅多にお目にかかれない” って」
「そうなんだ」
「壁外でなくても… 巨人相手でなくても… 本気出したんだね…」
ペトラはしみじみとマヤの顔を見ていたが、ニヤッと笑った。
「マヤ… 速いもんね! あの兵長が本気で追いかけるなんてすごいよ!」
「……ありがとう」
「だから遠征訓練、きつかったのかなぁ」
「ん? なんで?」
「いや、兵長がそこまで本気出してたなんて知らなかったからさぁ。昨日は、どうして今日の兵長 こんなに飛ばしてるのかな…って思ってたんだけどね」
ペトラが言うには、兵長は午前の訓練が終わったときに突然、午後の馬術訓練を遠征訓練に変更すると言い出し、ありえないほどの速度でずっと駆け通しだったそうだ。
「きっと… アドレナリンが出まくってたんだよ!」
そう話を締めくくると、ペトラはペロッと舌を出した。
「そうかもね。とにかくその “アドレナリンが出た兵長” は、怖かったよ~」
マヤがそう言うと、ペトラもうなずいた。
「わかるわ。とても近寄れないもんね! あの瞬間の兵長は」
……うん? 近寄れない? いや、兵長の方から近寄ってきたけど?
マヤが混乱している間に、ペトラは次の話題に移っていた。
「ねぇ、執務の補佐ってもう慣れた?」
「あっ… うん」
「……やっぱ兵長の部屋隣だし、会ったりする?」
……ふふ、やっぱり兵長のことが気になるのね。
マヤはペトラを微笑ましく思いながら、話し始めた。
「うん、今日ね ちょうど休憩してるときに来たから、紅茶を淹れたよ」
「へぇ! 兵長、紅茶が好きだから喜んだんじゃない? マヤ、淹れるの上手いし」
「“悪くねぇ” って言ってもらった」
「それって兵長の誉め言葉だよ! いいなぁ!」