第11章 紅茶の時間
「どこの茶葉だ?」
「父がブレンドしたものです」
マヤの声が弾む。
「お店で一番人気なんですよ」
「そうか」
リヴァイはさらに一口飲み、揺れる紅色の水面を見つめながら言葉を継ぐ。
「淹れ方も… 三本の指に入るな…」
「……三本の指?」
「あぁ。俺の行きつけの店の爺さんとマヤ… お前だ」
「あと一人は…?」
「俺に決まってるだろ」
「あぁ! そうでした、ペトラが兵長はものすごく紅茶が好きで詳しいって言ってました!」
「そうか」
その後しばらく誰も口を利かなかったが、二杯目の紅茶にリヴァイが手を伸ばしたのを見てマヤは小さくあっとつぶやいた。
「なんだ」
「いえ… そちらは兵長に差し上げるつもりではなかったので…」
「ゴールデンドロップじゃない方だからか?」
「……はい」
二人のやり取りを黙って聞いていたミケが、思わず口を挟む。
「ゴールデンドロップ?」
マヤはリヴァイが答えるものと思い黙っていたが、リヴァイがマヤの顔をじっと見たので、急いで説明した。
「えっと、ゴールデンドロップはポットから注ぐときの最後の一滴のことです。この一滴に香りも旨味もギュッと凝縮されていて、一番美味しいんですよ」
「そうなのか」
「はい。王都のお茶会では、ゴールデンドロップは貴賓のものなんです」
マヤがミケに説明している間に、リヴァイは二杯目の紅茶を口に含んだ。
しばらく紅茶の味を確かめるようにカップを口に運んでいたが、カップをテーブルに置くとつぶやいた。
「……オリオンが世話になったそうだな」
「あっ… はい」
ソファの端に遠慮がちに座っていたマヤは、また兵長が話しかけてきたことに驚きつつ笑顔を向けた。
「いい子でした… とっても」
「あいつは… 俺とヘングストにしか気を許さねぇのにな」
「ふふ」
リヴァイとマヤは、馬の話題で盛り上がっている。
その様子を見てミケは思う。
入室してきたときは不機嫌な様子を眉のあたりに漂わせていたが、今ではすっかり柔和になっている。
……わかりやすいな… やっぱり。
心ともなく鼻がフンと鳴る。
「あ?」
マヤばかり見ていたリヴァイが振り返った。
「いや… やっぱり素直だなって思っただけだ」