第11章 紅茶の時間
砂時計の砂が落ちきった。
マヤは、いつもどおりにティーポットのふたを開けた。
途端に兵長の鋭い声が飛んでくる。
「何をしている」
マヤはビクッとしたが、動揺を隠すようにティースプーンでポットの中身を軽くかきまわしながら答えた。
「蒸らしている間に上の方が薄く下の方が濃くなってしまいますから、こうやって軽くかきまわして均一にならしてます」
手早くポットにふたをすると、ティーストレーナーで濾しながらカップに注ぐ。
一杯ではお湯の量が少なくて茶葉がひらききらず、美味しく淹れられないので、マヤは少なくとも二杯は淹れると決めている。
今も客人用カップ&ソーサを二組用意して、優雅な手つきで注ぎ分けた。
そして最後の一滴まで注ぎきったカップの方を、兵長の前に差し出した。
「どうぞ」
リヴァイは独特な持ち方でカップを上から掴み、鼻先に持ち上げた。
その芳醇な香りを堪能したのか目を細めると、そっとカップに口づけた。
「……悪くねぇ」
「……ありがとうございます」
褒められたのか貶されたのかよくわからず、マヤはとりあえず頭を下げた。
するとミケが、すかさず言葉を挟んできた。
「マヤ、リヴァイの “悪くない” は “最高に美味い” だ」
「ほんとですか!?」
喜びで頬を赤く染め上げたマヤの顔に、リヴァイはドクンと胸の鼓動が高まったのを感じる。
「……あぁ」
胸の高鳴りを隠すように素っ気なく返すと、再び紅茶を口に含む。
その紅茶は爽やかなフルーティーな香りの中に、バランスの良い渋みが感じられた。ゆっくり飲みこむと鼻に芳醇な香りがふわっと抜けていく。
「……悪くねぇ」
紅茶好きなリヴァイも思わずうなるような、本当に美味しい紅茶だった。
「ふふ、ありがとうございます」
リヴァイの二回目の悪くねぇ… が嬉しくて、思わず微笑み返した。
……二回も美味しいって言ってくれた…!
マヤはいつもは何を考えているのかわからなくて、ただただ怖いだけの兵長が、自分の淹れた紅茶を褒めてくれたのが嬉しくて天にも昇るような気持ちになった。
紅茶の湯気越しに見るリヴァイ兵長の顔が、和らいで見えた。