第11章 紅茶の時間
シュンシュンシュンシュン!
ちょうどお湯が沸き始めた。
充分に沸騰させてから、ティーポットとカップに熱湯を注ぎ温める。
お湯を捨て、ポットに茶葉を入れる。
今日の茶葉は、紅茶屋を営むマヤの父がブレンドしたオリジナルティーだ。
爽やかに香りが立ち若干の渋みが印象的なフレーバーで、お店でも一番人気の茶葉だ。
再びお湯が沸騰するのを待ちながら、マヤは落ちつかない気持ちになる。
リヴァイ兵長とは前日の朝に、立体機動訓練の森で会って以来だ。
訳がわからないうちに、オルオではなく兵長に追いかけられる羽目におちいった。
追いつかれた末に恐ろしい形相の兵長に枝の上で追いつめられ、あごに手をかけられ、すぐ目の前に顔が近づいてきて…。
シュンシュンシュンシュン!
ハッと気づくとお湯が沸いて、やかんがにぎやかに鳴いている。
……やだ! 私ったら…。
昨日の兵長を思い出すと、顔が熱を帯び赤くなってくるのが自分でもわかる。
ものすごく怖かったけれど、あのときオルオが現れなかったら…。
そう思うだけで、心臓は跳ねた。
沸騰した熱湯をティーポットに注ぎながら、マヤは悩む。
……兵長に どんな顔をしたらいいんだろう…。
いくら考えても答えは見つからず、トレイにポットとストレーナー、ひっくり返した砂時計に客人用のカップ&ソーサーを乗せ、給湯室を出た。
廊下を進み、ミケ分隊長の執務室の前に立つ。
マヤは一度深呼吸してから、扉をノックした。
「お待たせしました」
ミケもリヴァイも、何も言わない。
元々こういうときミケは何も言わずに座って、紅茶が目の前に運ばれるまで待っている。
したがって全くもっていつもどおりなのだが、今は黙って待っている人物が二人いると思うだけで圧迫感を感じ、動きもぎこちなくなる気がした。
テーブルにティーポットやカップを並べ、砂時計を置く。
ソファには腕と足を組んだ兵長が、じっとマヤの手許を見ている。
緊張で手が震えそうになり、マヤは慌てて左手で右手を押さえた。
兵長の視線を意識しないためにさらさらと落ちている砂時計の砂に意識を集中させると、全世界が薄いガラスの蜂の腰に凝縮されていく気がした。