第11章 紅茶の時間
唐突にひらいた扉に、ミケもマヤもそれぞれの動きを止めた。
闖入者はこめかみを押さえたままの姿勢で固まって自分を凝視している女を一瞥すると、新聞を持ったまま眉を上げている長身の男の方に向かった。
「リヴァイ、ノックしろよ。何回言ったらわかるんだ」
ミケが非難めいた視線を投げかけると、リヴァイは持っていた書類を机に叩きつけた。
「てめぇの方こそ、毎度毎度サインを忘れやがって!」
ミケは叩きつけられた書類に黙って目を通すと、フンと鼻を鳴らしペンを手に取る。
サラサラと複数枚の書類にサインをしているミケを睨みつけながら、リヴァイは吐き捨てた。
「お前も補佐だったら、きっちり確認しろ」
突然乱入してきたリヴァイ兵長に度肝を抜かれていたマヤは、しばらくしてからその言葉が自分に向けられたものだと気づいた。
「はいっ! 申し訳ありません!」
慌てて立ち上がって謝るマヤを、リヴァイは振り返りもしない。
サインし終えたミケが鷹揚に笑った。
「リヴァイ… これはマヤがいないときに出したんだ、彼女に責任はない。マヤの紅茶でも飲んでいったらどうだ。落ち着くぞ」
「………」
返事をしないリヴァイの様子を肯定と受け止め、ミケはマヤに頼んだ。
「マヤ、リヴァイに紅茶を淹れてやってくれ」
「はい」
マヤは短く返事をするとテーブルの上の紅茶のセットをトレイに手早く乗せ、執務室を出た。
扉を閉めるときに、リヴァイが不機嫌そうにドカッとソファに座るのが見えた。
「……はぁ…」
ティーポットとティーストレーナーの茶葉を捨て綺麗に洗うと、白い布巾で水滴を拭く。
やかんを火にかけ食器棚を仰いだマヤは、再びため息をついた。
……兵長のカップ、どうしよう…。
上から二番目の棚に、兵長愛用のカップ&ソーサーが鎮座している。白地につる草のレリーフが優雅で美しい、高級な逸品だ。
手を伸ばしかけたがこの間、紅茶の缶を手に取ったときに降ってきた怖い声 “おい、何をしている” が聞こえるような気がした。
……また勝手にさわったら怒られちゃう!
マヤは客人用のカップを取り出した。