第25章 王都の舞踏会
「………」
ひとことも答えられずにギータの大きな背中は震えている。
「なんだよ、お前。可愛いとこあるじゃん。マヤさんに惚れてるなら惚れてるで、そう言ってくれてたら協力してやったのによ…。なぁ、ダニエル?」
「そうだな…。でもさ、マヤさんは兵長と…」
ダニエルはギータの気持ちを考えると、それ以上言えなくなってしまった。
背後の二人が無言になってしまい、ギータはゆっくりと振り向いた。
「オレは… 別に… マヤさんに… 惚れてる… とかじゃなくて…」
ひとことひとことを絞り出すように言うギータの肩を、ジョニーとダニエルは左右からそれぞれ叩いた。
「悪かったよ。お前の気持ちはわかった」
「兵長が相手とかあきらめるしかないよな」
急に優しくなった同期二人に、ギータも素直になる。
「……だよな? よりによって兵長とか…」
しゅんとしているギータは、図体はでかいが子犬のように見える。
「元気出せよ! ってかさギータ、お前いつからマヤさんに惚れてんの?」
「それな! そんな素振り、別になかったことなくね?」
首をかしげるジョニーとダニエル。
「だから惚れてるとかじゃなくて!」
ギータのそばかすの頬が赤く染まる。
「……マヤさんには笑っててほしいんだ」
ギータの脳裏に浮かぶのは、壁外調査の開門号令前の待機中。
不安と緊張でいっぱいいっぱいだったときに励ましてくれたマヤの笑顔。
“私だって、いざとなったらあなたを守るわ”
その言葉とともに馬上で笑った強さと美しさ。
……あのとき、マヤさんはこうも言った。
“私たちには人類最強がついてるんだもの。大丈夫よ!”
そうだ。マヤさんのあの笑顔は、リヴァイ兵長がいるからこそのものなんだ。
マヤさんにはきっと、兵長が必要なんだ。
「だからオレは、マヤさんと兵長のことを応援するつもりだ」
ジョニーとダニエルに言うというよりは、自身に言い聞かせるようにギータはつぶやいた。