第24章 恋バナ
「そうそう、そこ」
ペトラは机の引き出しを開けて手鏡を取り出し、覗きこんだ。
「……私はマヤみたいにふくれてない… というか、涙袋ほぼないな…」
「そう?」
手鏡から顔を上げてペトラはマヤの顔を真正面から、まじまじと見つめる。
「うん、私はあんまりないわ… 涙袋。マヤはめっちゃある! いいな~!」
今まで涙袋を特に意識したことはないので、マヤは妙な気持ちになってくる。
「……そうかな…。涙袋をうらやましがる人は初めてだよ?」
「え~、だってなんか可愛くない?」
「別にそんなことなくない? ペトラは確かにあんまりふくれてないけど、可愛いし」
マヤもペトラの目元を間近で見つめ返した。
「ちょっと! そんな可愛いとか褒めても何も出ないよ?」
とペトラが言えば、マヤも。
「じゃあ私だって何も出さない」
「えっ、何かくれる気だったの?」
「……さぁ?」
「もう! マヤのケチ!」
二人はしばらくじゃれ合っていたが、ふとペトラが疑問を口にする。
「涙袋ってさ、涙が入ってるのかな?」
「どうだろ? でも下にあるのに涙が入ってたら変じゃない? 涙をたくわえておくなら、せめて上のまぶただよね? それにいっぱい泣いても涙袋が空になったことないよ?」
「そっかぁ。じゃあ涙は入ってないんだね。……だったら涙袋なんて名前、変じゃない?」
「……そう言われたら、そうだけど」
「ホントに涙袋っていう名前なの?」
疑わしそうな視線をマヤに向けるペトラ。
「やだな、本当よ。近所の… あっ、クロルバのね、髪を切ってくれていた床屋のおばちゃんが言ってたもん」
「へぇ、そうなんだ」
「うん。“マヤは涙袋が大きくて…」
そこまで話して、マヤは顔を赤らめて黙ってしまった。
「……大きくて何よ?」
話を途中でやめたマヤを不満そうにペトラは見やる。
「……大きくてべっぴんさんだね” って…。ごめん、自分で言うの恥ずかしい…」
「やっぱり涙袋があると可愛いんじゃない!」
「でもそれ言われたの、五歳とかそのくらいのときだよ!」
マヤも躍起になって言い返した。