第24章 恋バナ
「私が五歳のときなんか、お転婆とは言われてもべっぴんなんかないわ!」
ペトラも負けじと言い返す。
「ふふ」
なぜか笑ったマヤに、ペトラはきっとまなじりを上げた。
「ちょっと! 何を笑ってんの!」
「ごめん、だってお転婆だった五歳のペトラが想像できちゃって…。可愛かったんだろうなぁって」
「過去形はやめてよね」
「ごめんごめん。今も可愛いよ!」
「よしっ、許してしんぜよう」
ペトラは冗談めかして言ったあとに、こほんと咳払いをした。
「……騒いでたら、喉がからから」
「紅茶、淹れ直してこようか? ……それともお開きにして寝ようか?」
「紅茶でお願い。まだまだしゃべり足らないもん」
「了解」
マヤは手早く紅茶のセットをトレイに乗せて給湯室へ向かうべく、部屋を出ていった。
とりとめのない話を時間も気にせず話したり。笑ったり。ときには相手に腹を立て衝突しても、すぐに仲直りして。
17歳を迎えたマヤの夜は、かけがえのない友と一緒に過ぎていく。
同じころ、ハンジの部屋では。
ナナバとニファが大浴場からのぼせたハンジを連れ帰ってきてから、もうかなり時間が経っている。
ベッドにはハンジが爆睡している。それを静かに見守っているのはモブリットただひとり。
ナナバとニファの二人は “あとはよろしくお願いします” と、それぞれの自室にさっさと退散したのだ。
「……分隊長…」
呼びかけてみても、当然返事などない。なにしろ爆睡。
普段は睡眠時間を削って研究や怪しげな実験に没頭するハンジなのだが、眠りに落ちるきっかけさえあれば、たとえば今は久しぶりの風呂でのぼせるというきっかけひとつで深い眠りに落ちるのは、結構いつものことである。
分隊長と呼びかけても反応がないことを確認したモブリットは、眠るハンジの右手をそっと握った。
そしてもう一度、呼びかける。
「……ハンジ…」
深い吐息をもらしてもなお、手を握りつづけた。
何かのきっかけでハンジが深い眠りにつけば、こうしてそっと手を握り、いつも呼ぶ “分隊長” ではなく彼女の名前で呼びかける。
「決して満たされることはないだろうが、俺はあなたのそばにいる」
それはモブリットだけが知る秘密の慕情。
モブリットのいつもの切なく長い夜も、静かに更けていく。