第24章 恋バナ
薄い白磁のティーカップ。描かれている桔梗の花の青紫色がはっとするほどに美しい。
ペトラはまじまじと見たあとに、ぽつりと言った。
「……なんか想像してたのと、ちょっと違う」
「……そう?」
普通に “可愛い” だとか “素敵だね” などの感想が聞けると思っていたら、どちらかといえばネガティブな感じでマヤは戸惑う。
「うん。赤とかピンクの可愛い感じのかと勝手に思ってた。大人っぽいね。この花、好きなの? というかなんて名前?」
「キキョウ。ヘルネに行く道でちょうど今、咲いてるよ?」
「へぇ、そうなんだ。ヘルネに行くときは何を買おうかなとか、何を食べようかなとかばっか考えてて、花なんて見てないや…」
えへへと照れ笑いをしたあと、ペトラはつづける。
「私は知らないけど、綺麗な花だね、キキョウか…」
「うん、本物もとても綺麗よ。つぼみはね、紙風船みたいにふくれていて可愛いの」
「紙風船? 面白いね」
「でしょう? でね、おばあちゃんがね、好きな花だったんだ。おじいちゃんがキキョウの花が彫られた文箱をおばあちゃんにプレゼントしたんだけど、それを私がおばあちゃんが亡くなったときに形見でもらったのよ」
「フバコ…?」
首を傾げるペトラ。
「手紙とか、封筒や便箋を入れる箱のことよ」
「あぁ! それ、うちはお母さんがクッキーの缶に入れてたわ」
「ふふ、素敵な再利用ね。美味しそうな香りがしそう!」
マヤはラル家の缶の活用法に、大いに感心した。
「それでね、ヘルネに行く途中でキキョウの花が咲いていたから、兵長におばあちゃんの文箱の話をしたの。そのあとでカサブランカでキキョウのティーカップを見つけて驚いちゃって」
「……なんで?」
「だって初めて見たんだもの、キキョウの柄。うちは紅茶屋だし、結構ティーカップには詳しい方だと思うんだけどね」
「確かに派手じゃないし、物静かなデザインでめずらしい感じがするわ」
ペトラはマヤが大切そうに持っている桔梗のティーカップを見つめながら、納得した様子でうなずいた。