第24章 恋バナ
マヤは今、自室のベッドに腰をかけている。
ぼーっと見つめる視線の先には、リヴァイ兵長から誕生日プレゼントにもらった桔梗のティーカップ。
少しずつ酔いが醒めていく。
……私、兵長と出かけたんだ…。
夢なのではないかと思う。本当は朝から一歩もこの部屋から出ていなくて、ずっとベッドに腰かけていて、白昼夢に魂ごと囚われていたのではないだろうか。
クヌギの木の下で腕を組んで先に待ってくれていた兵長。
桔梗の花と、天国の祖父母の風のささやき。
紅茶のすべてが凝縮されているような “カサブランカ” 。店主のリックさんの雪のように白い髪と立派なあご鬚。紅茶バカだと笑う声。芸術のような紅茶がもたらす憩いの時間。
丘で語った遠い日の、大切な大切な記憶。
兵長の髪が、さらさらと指の間からこぼれる感触。
青灰色の瞳に吸いこまれそうになる。速くなる鼓動。溶けそう。
“荒馬と女” のトマト。人生で一番美味しいエール。
兵長の “マヤ、誕生日おめでとう” の低い声と熱いまなざし。
一緒に見上げた、少し欠けた白い月。
“ゆっくり休め” の甘い声。
……全部、全部、本当のことなの? 嘘じゃないの?
でも確かに今、目の前に… 兵長から贈られた桔梗のティーカップがある。
実感がともなうと、こみ上げてくる幸せな気持ち。
嬉しいのに、じんわりと涙があふれてくる。
……リヴァイ兵長が好き。
今日一緒に過ごして、話して、歩いて、笑い合って、飲んで、食べて、見つめて、見つめられて。
何をしても、何をされても。
兵長を恋しく想う気持ちは、強くなるばかり。
この気持ちは、どこまで大きくなるのだろう? 胸いっぱいに広がっているのに、まだまだ全然足りない。もっともっとと、心が叫ぶ。
コンコン。
ノックの音がした。
兵長への想いの沼に沈みそうになっていたマヤは、はっと扉を見つめる。
「マヤ~!」
……ペトラだ!
弾かれたようにベッドから立ち上がり、扉を開けにいった。