第24章 恋バナ
ハンジとニファのあとを追ってナナバも出ていこうとしたが、ふと振り返った。
「モブリットさん」
「なんだい?」
「ここ… 風呂、部屋についてますよね?」
ナナバは奥にある扉に目をやる。
そう、幹部の居室には一般兵士のそれとは違って、小さいながらも風呂とトイレが備えつけられているのだ。
「大浴場だと男のモブリットさんが無理やりにハンジさんを連れていけないのはわかるけど、ここならいけるんじゃないですか?」
ナナバのもっともな意見を聞いたモブリットは、ふぅっとため息をついた。
そして、ゆっくりと答える。
「……俺が男だからこそ、ここの風呂に分隊長を無理やりには入れられないんだ。たがが外れてしまったら、もう俺は… 分隊長のそばにいられなくなる」
「………」
ナナバは何も言えなくなってしまった。
……たがが外れる…。
ハンジさんとモブリットさん。
いつも一緒にいて、それを当たり前のように感じているけれど。
こうやってプライベートな私室に公然と二人きりで過ごしているけれど。
でもれっきとした男と女であり、この密室である部屋で入浴となれば、モブリットさんがそれまでに理性でなんとか保っていた二人の微妙なバランスが一気に崩れてしまうんだろうな…。
きっと心のどこかでモブリットさんは、バランスが崩れて一度でもいい、そういう男女の関係に強引にでも持ちこんでしまいたいと願ってるのかもしれない。
だって、男だもの。
狂おしい劣情にとらわれて眠れない夜もあるに違いない。
ナナバがモブリットの心情をあれこれと察してその顔に目をやれば、いつもおだやかなモブリットの瞳の奥には苦悩の色が浮かんでいた。
「モブリットさん…。よくわかりました…」
もう少し何か、モブリットの気持ちに寄り添える言葉はないかと思案しているナナバに、モブリットは優しくうながした。
「ありがとう、ナナバ。さぁ、分隊長の入浴の手伝いに行ってくれ」
「了解です」
ナナバは頭を下げて、そっと部屋を出ていった。
部屋に一人残されたモブリットは、閉ざされた浴室への扉をしばらく切なげに見つめていたが、軽く首を横に振ると部屋の掃除を始めた。