第24章 恋バナ
「ふふ」
“自分は酔っぱらいではない” と言いきって、ふわふわと上機嫌で歩きながらマヤは笑っている。
ほろ酔いのせいで火照った頬は、ほのかに赤く上気して。優しく頬を撫でる夜風になりたいと願う。
酒が入ったマヤの身体はいつもより体温が高いのだろうか、跳ねるように歩くたびに甘い香りが立ちのぼる。
確かに泥酔ではないし、この様子では二日酔いにもならないだろう。
だが、たとえほろ酔いであっても、俺以外の男に今のマヤを見せたくねぇ。
「おい」
「はぁい、なんですか? 兵長?」
上目づかいで見上げてくるその顔の破壊力。それは劣情と理性のバランスを、いとも簡単に崩壊させるだろう。
「お前はもう、あまり飲むな」
「……どうしてですか?」
小首を傾げて立ち止まる。
「ご迷惑… でしたか?」
うるうると潤いが満ちてあふれそうになっている瞳の上で、艶やかな長いまつ毛がかすかにふるえている。
「ごめんなさい…。兵長の前では飲まないようにします…」
手を伸ばせばふれられる距離にあるマヤのくちびるは、なまめかしく濡れている。
「いや、そうじゃねぇ」
リヴァイは慌てて否定した。
マヤの瞳やくちびるに心を奪われているうちに、気がつけば “兵長の前では飲まない” などと。
とんでもないことを言っている。
……俺の前では飲まない? 俺のいないところでは飲む?
違う、そうじゃねぇ!
「酒を飲むのは俺がいるときにしろ。俺がいねぇときは、あまり飲むな」
「………?」
マヤはなぜリヴァイがそんなことを言ってくるのか理解できなかったが、今はなにしろ “ほろ酔い状態”。
……リヴァイ兵長が飲むなと言うなら飲まないし、飲めと言うなら飲むわ。
「はぁい、わかりました」
「………?」
あっけなく了承されて、かえってリヴァイの方が疑問符でいっぱいになる。
「いいのか?」
「いいのかも何も、兵長の言うとおりにしますよ?」