第24章 恋バナ
すっかり夜は深まって。
月光に照らされた道を、二つの影が行く。
一本の背の高い木が見えてくる。待ち合わせに使ったクヌギだ。
「……帰ってきちゃいましたね」
クヌギが見えたなら、兵舎まではあと少し。
「もっとずっと… いたかったなぁ…」
ほろ酔いのマヤの口はいつもよりなめらかで、先ほどから心情をそのまま素直に伝えている。
「ほんっとに美味しかったですねぇ、あのトマト! 鶏の窯焼きもオムレツもスープも」
「そうだな」
「あっ、エールも美味しかったですよ? 本当はね、あんず酒っていうのを飲んでみたいなぁなんて思ってたんですけど、ほら私… 飲み会で酔っちゃったし、もう飲みすぎない!って決めてるんで」
えへへと笑うマヤ。
「兵長も酔っぱらいの相手はごめんでしょう?」
「あぁ、そうだな」
一旦同意しておいてから、リヴァイは優しく訊いてやる。
「マヤ、今は酔っぱらってないのか?」
「はい、全然? ほら見てください、ちゃんと歩けてるし、自分が何を言ってるかわかってますよ。あのね、ちょっとはね、ふわふわして気持ちいいですけど。酔っぱらいではないですよ?」
確かにふらつくこともなく一人でまっすぐに歩けているし、いつもより多少おしゃべりになっているとはいえ、つじつまの合わないことを言ってはいない。
“荒馬と女” で、マヤはエールを3杯飲んだ。
本当は2杯でやめておこうと思っていたのだが、あまりにも出てくる料理が美味しくて、ついつい飲んでしまったのだ。
マヤにとっての “エール3杯” は、ほろ酔いラインのバロメーターだ。
ほろ酔い以上に酔っぱらってしまっては、リヴァイ兵長に迷惑がかかる。
そう考えて、きちんと “エール3杯” を死守した。
……だから私は、酔っぱらいじゃないの。ほろ酔いなだけ。