第10章 オリオンとアルテミス
「マヤ、リヴァイ班が午後から遠征訓練なんじゃ。すまぬが、オリオンを蹄洗場に連れていってくれないか。わしは他の馬を連れ出すからのぅ」
ヘングストはそう言って、マヤに無口を手渡した。
「わかりました」
ヘングストはしばらく様子を眺めていたが、マヤが軽くオリオンの鼻先をさわっただけで、オリオンが頭を下げ無口を通すのを許したのを見て、安心してその場を離れた。
「いい子ね… ありがとう、オリオン」
マヤは無口をつけながらずっと声をかけつづけ、難なく終えるとひき手を持ち、ゆっくりと馬房からオリオンと出る。
そのまま厩舎を出て、蹄洗場に向かった。
そこにはもう、サムとフィルに連れられたエルドの馬クロノスと、グンタの馬ヘパイストスがつながれていた。
サムとフィルは、オリオンをひいて現れたマヤを見て腰を抜かした。
「……嘘だろ!」「おい、マジかよ!」
マヤは少々優越感にひたってしまった。
「ふふ、こんにちは! サムさん、フィルさん」
「マヤ! 一体どうやってオリオンを!?」
「オリオンはお前らよりマヤの方がいいってことじゃ!」
ヘングストが二頭の馬を従えて、やってくるなり大声で笑う。
連れているのはペトラの馬アレナとオルオの馬アレースで、この二頭は双子だ。
双子を蹄洗場につなぎながら、マヤをねぎらう。
「いや、すまなかったのぅ。おかげで助かったわい」
「いいえ、オリオンと歩けて楽しかったです」
マヤはにっこり笑ったが、はっと気がついた。
……午後の訓練の時間だ!
「私、もう行かなくちゃ! 皆さん、失礼します!」
皆に頭を下げると、マヤは兵舎に向かって走り出した。