第23章 17歳
朝にミケから今日がマヤの誕生日だと知らされて、爺さんの紅茶だけではなく晩メシもおごって… と、そこまでは漠然と考えた。
だが、そもそも女と二人きりで出かけたり、メシを食ったことがねぇのに誕生日の贈り物だなんて何をどうすればいいんだ?
そんなとき爺さんの店でマヤが見せた、この上もなくきらきらと輝く瞳の色。
行きがけの道端で、二人で眺めた桔梗の花。それにまつわる祖父母のエピソードを聞かせてくれたマヤ。
桔梗の花はマヤにとって特別。そして桔梗の花をモチーフにしたティーカップはめずらしい。
そして爺さんの店で、まるでマヤに見つけてもらうためにそこに存在していたかのように、カップボードに飾られていた桔梗のティーカップ。
息をのんでカップを見つめるマヤの目の輝きがまぶしい。
その瞬間に俺は、このティーカップを贈ろうと心に決めた。
背中から声がする。
「……兵士長、キャッスルトン茶園の茶葉をお包みしました」
振り向けば、爺さんがうやうやしく立っている。
マヤは桔梗のティーカップに夢中で、爺さんが来たことすら気づいていない。
俺は即座にこのカップを喫茶で使うことと、贈り物として包んでキャッスルトン茶園の茶葉と同じ紙袋の中に入れてくれと爺さんにささやいた。
……こんなに喜んでくれたなら、とっさの判断だったが間違いなかった。
本当に喜んでくれるのかどうか…、恐らく間違いはねぇが、それでも心のどこかでマヤの反応にどきどきしていたリヴァイは、ほっと胸を撫で下ろした。
「お待たせしました!」
店員が酒とサラダ、おしぼりを運んできた。
「あっ」
慌ててマヤは桔梗のティーカップを箱に戻した。ちょうどペトラへのお土産に買ったバウムクーヘンの紙袋の中におさまる大きさだった。