第23章 17歳
しばらくすると入り口の扉から、先ほど慌てて出ていった店員が戻ってきた。
「ふ~! 忙しい忙しい」
両腕いっぱいに真っ赤に熟れた大きなトマトを抱えている。
厨房に直行した店員を見て、マヤは声を弾ませた。
「立派なトマトでしたね。注文したサラダにあれが使われるのかな?」
「そうじゃねぇか?」
「夏野菜のサラダですものね。ふふ、楽しみ!」
トマトを楽しみにしているマヤの頬も、赤くなっている。
その顔を正面からじっと見つめていたリヴァイは、少しあらたまった声を出した。
「……マヤ」
熟れたトマトのことで頭がいっぱいだったマヤは、急に真剣な声で名を呼ばれて驚く。
「はい?」
リヴァイを見れば、隣の椅子に置いてある紅茶専門店 “カサブランカ” の紙袋から四角い箱を取り出した。若草色の包装紙に白色のリボンがかかっている。
「……これを」
その箱を、すっとマヤの前に置いた。
「へ? ……あの、これは…?」
「……誕生日プレゼントだ」
「あっ!」
今この瞬間まで、完全に自身の誕生日を忘れていたマヤは、心の底から驚いてしまった。
「すっかり… 忘れていました…」
自分の誕生日、もちろん最近までは憶えていた。リヴァイ兵長と出かける約束をした日曜日は、ちょうど誕生日だと。
だが日曜日が… 7月7日が近づくにつれ、どきどきと高まる胸の音が通常の思考を奪ったらしい。
……緊張していて、誕生日どころじゃなかったもの…。
「ありがとうございます…」
マヤの声がかすかにふるえる。
……兵長が、私の誕生日にプレゼントしてくれるなんて…!
それだけで胸がいっぱいになって、何も言えない。