第23章 17歳
オリオンを一目見て命を預けられると確信したというリヴァイの話を聞いて、マヤは深くうなずいた。
「わかります。馬はどの子も可愛くて好きだけど、アルテミスと初めて会ったときは、他の子とは違う何かを感じました。それはきっとアルテミスも同じで…、お互いが同じように感じたということも理解し合えたのです。本当にアルテミスは私にとってすごく大事で…、えっと…」
愛馬への想いにふさわしい言葉を選んでいると、リヴァイが口にした。
「かけがえのない存在… だろ?」
瞬時にマヤの顔は輝いた。
「そうです! かけがえのない存在そのものです…。ぴったりの言葉…」
「俺にとってのオリオンも、かけがえのない存在だからな…。お互い、良い馬に出会えて幸せだな」
「はい。……本当にこのお店、“荒馬と女” だなんて名前からして兵長にぴったりですね。荒馬はオリオンだし、女は…」
深く考えずにそう発言してから、マヤはあれ? と思った。
「あっ、女は別に関係なかったですね。変なことを言って、すみません」
……“荒馬と女”、荒馬がオリオンならば女は…。
荒馬であるオリオンが俺にとって唯一無二のかけがえのない存在ならば、女は。
かけがえのない女…?
リヴァイは目の前で “荒馬と女” の看板を見上げているマヤを、じっと見つめる。
……マヤ、お前は俺にとって。
リヴァイが “荒馬と女” の女がマヤだと意識したとき。
ギイと軋む音が響いて、店の木の扉がひらいた。中から店員が出てきて、あっと目を見開いた。
「リヴァイ兵長! いらっしゃいませ!」
満面の笑みを見せたのち、すぐさま店の奥に向かって叫ぶ。
「親父さん! リヴァイ兵長が来られました~!」
「あいよ!」
「さぁ、どうぞどうぞ! お入りください」
へこへことコメツキバッタのように頭を下げて店員は、リヴァイとマヤを店内に招き入れたのちに、自分はどこかに用事があるのだろう、急いで出ていった。