第23章 17歳
「前にエルドさんたちが話していたのを聞いたんですけど、兵長の行きつけのお店がいいです」
リヴァイ班と “月夜亭” に飲みに行った帰り道で、皆が話していたリヴァイ兵長行きつけの店。
「なんか変わった名前でした…。ええっと、なんだったかな…。確か… 馬が関係していたような…」
思い出そうとしていると低い声が答えをくれた。
「“荒馬と女” か?」
「あっ、それです!」
「わかった。こっちだ」
くるりときびすを返して、リヴァイは広場から放射状に広がっている道のうちの一本を行く。
じきに路地の奥にある目当ての店が見えてきた。古びた雰囲気のブリキの看板が、ぎぃこぎぃこと風に揺れて鳴いている。
立派なたてがみの黒い馬が前脚を上げていなないているシルエット、斜体になったおしゃれな文字で書かれている “荒馬と女”。
「看板の馬… オリオンみたい!」
嬉しそうな声を上げたマヤに、リヴァイも同調する。
「荒馬だしな」
「兵長とヘングストさんには全然荒れてないですけどね」
「マヤにも懐いているんだろ?」
「……だといいんですけど。オリオンはとても聡くて優しい目をしています。私はオリオンが大好きです」
「あぁ、俺もだ。荒馬だ、暴れ馬だと敬遠されていたが、一目見たときにわかった。こいつには俺の命を預けられると」
壁外調査では馬だけが唯一の移動手段であると同時に、巨人への攻撃および逃走も、馬の存在なくして成功などありえない。
立体機動装置の腕前が対巨人における最重要事項であることは間違いないが、あてがわれた馬と信頼関係を築き、互いに尊敬し愛し、ただの “兵士と馬” ではなく “主と愛馬” の関係に高めることも命を懸けた壁外調査では不可欠なのだ。