第23章 17歳
“そんなに私のことが好きなのかしら?”
ドクンと心臓が跳ねた。
その言葉を紡いだマヤのくちびるが、艶やかに濡れている。
目を逸らすことができない。
ドクンドクンとうるさい鼓動を鎮めようとすれば、自然と眉間に深い皺が刻まれた。
「……兵長?」
マヤは今までおだやかに、自身の幼少時の話を聞いてくれていたリヴァイが、急に不機嫌そうな顔をして黙ってしまったことを不思議に思った。
……気分でも悪いのかしら?
「……大丈夫ですか?」
「……あぁ。大丈夫だ、なんでもねぇ」
……マリウスに…、それもクソガキだったころのマリウスに向けられた言葉じゃねぇか。
反応しちまうなんてクソガキは俺じゃねぇか。
「すみません…。私ばっかり昔の話なんかして…」
リヴァイの様子がおかしいのは、自分の長話のせいかと勘違いしたマヤはうなだれた。
「いや、そうじゃねぇ。それでその魔法の言葉をマリウスに言ったあとはどうなった」
そう訊きながらもリヴァイは “訊かなくても答えなんか決まっているがな” と内心で思っていた。
魔法の言葉なんだ。
マリウスのクソガキは、マヤの虜になったに違いねぇ。
「そのあとマリウスは、ぴたりといじめなくなりました」
……だろうな。
「魔法の言葉を言ったときはマリウス一人しかいなかったんです。だからオーラフ、アレハンドロ、カーターの三人にも言わなくちゃと思ったけど、言う必要がなくなりました。マリウスが…、次の日からみんなを止めてくれて」
……他のヤツらは、開いた口がふさがらなかっただろうな…。
マリウスが率先していたくせにな。
「……そうか。良かったじゃねぇか」
「はい。それで丘の上で会った人にお礼を言いたくて。毎日、丘にのぼったけど二度と会えませんでした…」