第23章 17歳
「いーーーーー」
「よし。その口の形を意識して、にっこりと微笑んでみて」
今ならちゃんと、できる気がする。
マヤは口角を上げて笑ってみせた。
「いいぞ。あとは目だな…」
男は少し角ばったあごに手を当て、考えている。
「お嬢ちゃん、君は何が好きなんだい?」
「うーん…、わからない…」
いきなり範囲を指定されもせずに好きなものは何かと訊かれても、とっさに答えられない。
困っているマヤを見て男は質問を変えた。
「なら好きな食べ物は何かな?」
ぱっと花が咲いたようにマヤは顔を輝かす。
「お父さんの紅茶とお母さんのケーキ!」
「はは、即答だったね。ではその紅茶とケーキを思い浮かべながら、もう一度笑ってごらん」
「うん」
「そうやって丘の上で笑顔を練習したんです」
マヤは当時のことを思い出しながら、できるだけ記憶のとおりに事細かにリヴァイに話した。
リヴァイはときどき “そうか” “それで” などと短い相槌を打ちながら聞いている。
「ようやく上手に笑えるようになって、とうとう魔法の言葉を教えてもらうことになりました。それをマリウスに言うときには、ただ笑うだけではなくて、こう…」
マヤは右足を軸にして、くるりと一回転してみせた。鳶色の髪と水色のフレアスカートがふわりと舞う。
「ターンしてから、瞳を覗きこんで…」
マヤはリヴァイの青灰色の瞳をとらえる。
「そんなに私のことが好きなのかしら?」
「………!」
リヴァイの胸が跳ねる。
マヤが目の前でくるりと回ったときに、煌めく髪の香りを風が運び、ふわっと鼻こうをくすぐった。
そして琥珀色の瞳に吸いこまれそうになった瞬間に聞こえてきた魔法の言葉。