第23章 17歳
「魔法の言葉…? 呪文なの?」
母親が読んでくれたおとぎ話の中で唱えられていた魔法の呪文。マヤはそのことなのかと思って頬を紅潮させる。
「ある意味、呪文かもしれないね。その金髪の子にはめっぽう効くだろうからね…」
男はにやりと笑うと、真剣な目をして話をつづけた。
「魔法の言葉だけでも充分だとは思うが、勝率を上げるためには君の協力が必要だ。できるかい?」
正直に言えば、マヤには男の言っていることがよくわからなかったが、なんだか秘密の素敵な作戦のような気がしてわくわくしてくる。
「……何をすればいいの?」
「笑うのさ」
「………?」
もともとわからなかったが、もっとわからない。
「笑ってごらん」
「………」
そんなことを急に言われても、面白いことも何もないのに笑えない。
でも一応、笑ってみようと。
「あはは…」
「それは、あははと発音しただけだよ。笑っていやしない」
思っていた以上に厳しい声が飛んできて、笑うより泣くことの方が簡単にできそうだ。
「もう一度」
「あはは…」
「駄目だ」
「あはは…」
「やり直し」
本当に泣きそうだ。もう泣くしかない。笑えない。
「できないよ…」
鼻をぐずぐずと、すすり始める。
「口角を上げるんだ」
「こうかくって何?」
「くちびるの端っこの部分のことさ」
男は自身の口角を指さしながら説明した。
「いーーーーーと言ってごらん」
「いーーーーー」
素直に “いーーーーー” と発音するマヤを可愛いなと思いながら男は褒めた。
「いいぞ。上手に口角が上がっている」
「ほんと?」
「あぁ。君は素質がある。ほら、つづけて」
「いーーーーー」
褒められて嬉しくて。
マヤは何度も “いーーーーー” と言った。